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Review: Isango Ensemble: Puccini's La Bohème / Abanxaxhi @ 東京芸術劇場プレイハウス (ダンス)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2013/12/22
イサンゴ・アンサンブル 『プッチーニのラ・ボエーム』
東京芸術劇場プレイハウス
2013/12/21, 18:30-20:30.
Words by Peter Cann; Directed by Mark Dornford-May; Music adapted by Mandisi Dyantyis and Pauline Malefane
Premiered in Cape Town in April 2012.

Isango Ensemble は、タウンシップ (Township, 元黒人居留区) 出身者が多くを占める 2000年創設の南アフリカ・ケープタウン (Cape Town, ZA) のカンパニー。 来日公演した2012年の作品は、 Giacomo Puccini のオペラ La Bohème (1896) の舞台を 19世紀パリ・カルチェラタン (Quartier Latin, Paris, FR) を 現在の南アフリカのタウンシップに置き換えたもの。 主人公が結核で死ぬ物語に着目し、世界エイズ・結核・マラリア対策基金とのパートナーシップの下で制作された作品だ。 予想以上に原作を踏まえたもので、四幕という構成も、歌も Puccini のものを踏まえていた。 steel pan と marimba からなる楽隊の音があまりよく聞こえなかったせいか、 音楽的にも南アフリカの音楽の要素よりオペラ的な歌唱の部分が目立っていた。 Xhosa (コーサ; 南アフリカのアフリカ系主要構成民族の1つ) の folk music で歌い踊る 第二幕のような場面がもっとあれば楽しめただろうに、と思ってしまった。

フライヤには「ジャズやアフリカの伝統音楽もミックスした」と、 カタログには「躍動的なリズムなど南アフリカの文化的なエッセンスを存分に注ぎ込み」 としか書かれていないので、自分も詳しいわけではなく勘違いもあるかもしれないが、 気付いた範囲でその音楽的要素の話を少々具体的に。 南アフリカ的な音楽要素としては、South African gospel を思わせるコーラスも多用されていたし、 6拍子のポリリズミックな手拍子にあわせてリズミカルに歌う Xhosa の wedding song のような歌もあった (特に第二幕) が、 静かに歌われる場面での 同郷ケープタウン出身の jazz piano 奏者 Abudullah Ibrahim (aka Dollar Brand) が ソロ (例えば African Piano) か Johnny Dyani との duo (Good News From Africa) で 弾き歌いそうな哀愁がががった旋律が印象に残った。 南アフリカのアフリカ系の音楽というと mbaqanga (Mahlathini が代表的な歌手) のような Zulu 語で歌われるものが知られるが、 ケープタウンは Abudullah Ibrahim (aka Dollar Brand) や The Blue Note を生んだ jazz の街で、 こちらではむしろ Zulu ではなく Xhosa の伝承歌がよく取り上げられていた (Miriam Makeba が歌ったことで有名になった “The Click Song (Qongqothwane)” や “Pata Pata” も、 Dollar Brand with Johnny Dyani: “Ntsikana's Bell” も Xhosa の伝承歌がベース)、 なんてことをこの舞台を観ながら思い出した。 それだけに、もっとこの音楽的要素を強く押し出した舞台が観たかった。

残念ながらその舞台の映像を観たことが無いことはもちろん、 音楽もドキュメンタリー番組中で断片的にしか聴いたことがないのですが、 南アフリカのオペラ/ミュージカルといえば、 Miriam Makeba が世界に注目されるきっかけとなった伝説的な “all African jazz opera” King Kong (1959) を思い出します。 Isango Ensemble 創設の40年以上前の作品で直接関係する事はないと思いますが、 彼らから King Kong がどう見えているのか、少々気になりました。