雪の週末は無理な外出を控えて、家で映画鑑賞。 戦前の松竹映画を重点的に観ているわけですが、今回は剛毅朴訥な 佐分利 信 が主演したこの2本。
仕事が出来るが社内政治のようなものには関心のない実直なサラリーマン間宮。 妹・文子は貿易会社に勤める英語も堪能な社長秘書。 間宮は碁の相手を通して部長の覚えも目出度いが、碁を通して取り入っていると疑われた上、 妹・文子が職場で見初められ求婚された相手が部長の甥だったことが閨閥作りと思われ、同僚たちに妬まれる。 そんな中、間宮は自分の潔白を証明するため辞職し、妻、妹と三人で大陸に発つ、という物語。
そんな物語そのものよりも、間宮夫妻と妹の三人の日常生活の場面に、 戦前の中流階級、その中でも上の方の一家の生活を垣間見るようで、興味深く観ました。 こういう生活の機微の中に登場人物の心情を映しこむ所も、島津 らしいでしょうか。
それに何より、女学校を出て英語も堪能というインテリで普通の男性より稼いでいる 颯爽とした「キャリアウーマン」という設定の妹・文子が良いのです。 仕事か結婚か、とか、釣り合う相手がいないとか、そんな話も戦前とは思えません。 そして、こういうクールビューティの役に、桑野 通子 にはぴったりハマってます。 個性的な洋装の着こなしも自然ですし。そんな、桑野 通子 を堪能した映画でした。
『兄とその妹』を観てみようと思ったのは、この『戸田家の兄妹』に似ているといわれてる映画だから。 というわけで、併せてこちらも十年ぶりに観ました。 ブルジョアの大家族が父の死後没落してばらばらになっていく中、残された母や未婚の妹(三女)が蔑ろにされていく。 兄弟の中でははぐれ者の次男は、 皆が一同に会した一周忌で、そんな長男、長女、次女の体裁ばかりの親戚付き合いの偽善を暴き、 母や妹を自分の働く天津へ連れて行くことにする、という話。
佐分利 演じる剛毅朴訥な主人公が義憤から大家族や会社を飛び出しアジア (中国) に新天地を求めるというところ、 そんな兄を慕う妹がいて彼女も付いて行くところなど、確かに似ています。 タイトルも「戸田家の『兄とその妹』」で、 元のサラリーマンドラマを小津調の大家族ドラマへ翻案したかのよう。 しかし、やっぱり大家族ドラマは少々苦手ですし、比べて観ると『兄とその妹』の方が好みでしょうか。 この映画は初めて興業的に成功した小津の映画としても知られますが、 この前のコメディ 『淑女は何を忘れたか』 (1937) の方が遥かに一般受けしそうに思うだけに、釈然としないものが。
十年前の小津生誕百周年の際は、戦前の日本映画に関する知識にも乏しく、もちろんそれまで小津の映画も未見。 半ば勉強気分で小津の映画を観たこともあり、出演の俳優など気にしていませんでした。 今回、改めて観るに、豪華な女優陣に、この時期 (大船に移ってからの) の松竹はいい女優を揃えていたよなあ、と、つくづく。 高峰 三枝子、三宅 邦子 に 坪内 美子。あまり出番は無いけど、桑野 通子 も。 しかし、最後の場面での 桑野 の振袖姿は……。見合いだろうと彼女には洋装で颯爽と登場して欲しかったなー、と。