Royal Opera House の委嘱で 2011年の Alice's Adventures in Wonderland と同じ振付/音楽/美術チームが William Shakespeare の戯曲 The Winter's Tales (1610) をバレエ作品化したもの。 Royal Ballet といえば世界のトップクラスのバレエ団ですし、 The Guardian の レビューなど評判も良好、 最近はよく行われるようになった live screening (いわゆる「ライブ・ビューイング」) がどんなものかという興味もあって、 足を運んでみました。 普段はいわゆるコンテンポラリーなダンスや演劇ばかり観ているわけですが、 もっと正統というか主流の舞台もたまには観ておきたい、というのもありました。
第一幕はシチリアの王宮が舞台。 予想以上に丁寧にダンス映像を使って物語を説明するベタな演出。 ソロや少人数で人間関係や内面を説明する場面が多い中、 ボヘミア王 Polixenes の旅立ちの場面、 accordion、wooden flute (bansuri だったよう) や frame drum などからなる 少人数の楽団を舞台に上げての、群舞が見応えありました。 民俗舞踊風の音楽に、衣装も地中海風の色調でカラフル。 それに、巧い人が揃っているので、群舞でも斬れ味抜群。 群舞以外では、嫉妬に狂ってからのシチリア王 Leontes を演ずる Edward Watson の変な動きが面白かったです。 嫉妬に身悶える深刻な感情ではあるのだけど、滑稽でもあるような。
第二幕はボヘミアの農村が舞台。 物語を説明するような場面が減り、ほぼ農村での収穫祭がほとんどを占めていました。 ここでは、明るく楽しい群舞が堪能できました。 この場面の中心となる若い二人、ボヘミアの王子 Florizel と羊飼いの娘 Pertita (実は Leontes の娘) の感情も明るく素直な恋心なので、 Steven McRae と Sarah Lamb 踊りも伸び伸び。 楽団の hammer dalcimer も cimbarom を思わせ、ちょっと中欧風。 男性の力強い踊りも田舎風というか、 第一幕の女性の目立つ華やかな群舞シーンと対照的でした。
第三幕は再びシチリアの宮廷に戻って。 最後の和解を描く意味でも物語上省略し難いのはわかるのですが、 再びダンスや映像などで物語を説明するような展開に。 許されての結婚式の群舞をもっと見せて欲しかったな、と。 Edward Watson (Leontis) の変な動きが無くなって、 第三幕は Zenaida Yanowsky の存在感が見所でした。 無実の王妃を庇いつつ、嫉妬に狂った王を諌めて改悛させる、 そんな凛々しく男前な Paulina (シチリア王の家来 Antigonus の妻) の役に、 男性より長身のバレリーナが実にハマり役でした。
The Winter's Tale はあらすじを知る程度だったので、 原作、特にそのディテールがどうバレエ化されたのかということは判らず。 他の公演、他のバレエ団と比較しての踊りの出来も判断しかねます。 しかし、判りやすい演出に優れたバレエ・ダンサー切れ味良い踊りに、 金と手間をふんだんにかけた良質なエンタテインメントを観たように思いました。 自分の好みのど真ん中ではないですが、live screening の気楽さもあって、充分に楽しめました。
live screening で舞台を観るのはこれが初めて。 中継映像とはいえこのレベルのバレエやオペラを、 生の公演と比べて1桁安い映画2本分程度の料金で観られるのですから、割安感があります。 シネコン系の映画館は劇場に比べて背凭れが頭まであるなど席の作りが良いので、 特にバレエやオペラのような上演時間の長い舞台の場合、劇場で観るより疲れないかもしれません。 クラシカルなバレエやオペラなど、少々好みから外れていそうな舞台でも、 これならにたまには観てみようかという気にもなれます。