2012年に活動を開始した3人組アートユニット 目 [め] による展覧会は、 銀座資生堂ビル地階のギャラリー空間を、 その入口を含めて全体として一つの体験空間として作り込んだインスタレーションだ。
いつもの通りに資生堂ビルへ行くと、ギャラリーに降りていく階段の入口が見当たらず、 そもそも始めからそこにそんなものは無かったかのように壁があり、「点検口」のスチール扉が半開きとなっている。 「あれ、暫く来ないうちに改装されて入口が変わったのかな」と一瞬思う程だが、 これが会場入り口だ。
一昔前のビルの電気設備室かボイラー室へ降りていくような、まだ工事中のエリアのような、 剥き出しコンクリートやボードの壁の階段を降りていくと、 工事中かのような養生のされたエレベータホールに出る。 その向こうにちょっとレトロな雰囲気のホテルの廊下が続いている。暖色カーペットに、壁に並んだ木のドア。 そのドアのドアスコープを覗いたり、袋小路の空間や階段を覗きながら進むと、一番奥にドアの開いた部屋がある。
中は質素なシティホテルのシングルルームという落ち着いた雰囲気で、 空室ではなく、泊まっている女性客の荷物らしきものもある。 壁に身長大の姿見がかかっているように見えるのだが、よくよく見ると自分の姿が映らない。 それで、鏡の部分はくりぬかれて姿見は枠だけで、その向こうに鏡対称の空間が広がっていることに気付く。 「鏡」を抜けて向こうへ行っても同じような空間が広がるだけなのだが、 よくよく見ると細部まで鏡像で作られていて、思わずニヤリとさせられる。
個々の体験に驚きがあるというわけではないのだが、 細部を「なるほど」などと思って見ているうちに、不思議な別世界に連れていかれているという感じだ。 普段の資生堂ギャラリーの広いモダンな空間を知っているだけに、 その空間が消え失せちょっと古びたホテルの廊下があるというのも不思議な感じで、 中に作り込まれているというより、別空間へ連れていかれたような感を強めていた。 悪夢的に変化することのない David Lynch の映画のような夢の中の世界に連れていかれたようにも感じた。 そんな体験が楽しめたインスタレーションだった。
このようなアトラクション的なインスタレーションは、国際美術展のようなアートフェスで、 普段は使われていない建築を活用するような形で行われることが多い。 通常営業している商業施設に併設されたギャラリーの展覧会できっちり作り込んでやっているだけに、 その作り込みの異化作用も強烈で、新鮮に楽しめたようにも思う。