Fiona Tan は映像を使った作品で知られるオランダを拠点に活動する美術作家。 大規模なグループ展で観たことがあるかもしれないが、ちゃんと観たのはこれが初めて。 形式的というより、自身の複雑なアイデンティティを含め、ナラティヴな傾向が強く、 そこを少々苦手に感じつつもつい引き込まれて観てしまった。
彼女は、中国系インドネシア人の父と (イギリス系の) オーストラリア人の母を持ち、 インドネシア生まれながら、オーストラリアで育ち、現在はヨーロッパで活動している。 そんな作家の自身のアイデンティティを探った You May Live In Interesting Times (『興味深い時代を生きますように』, 1997)。 私的なドキュメンタリーで、映像的な斬新さがあるわけではないが、 スハルト独裁時に追われるようにインドネシアからオーストラリアへ移住したという一家の背景といい、 華僑として世界中に親戚が散らばっている上、中国のルーツの地も明らかになっているなど、 題材の興味深さもあって、つい引き込まれた1時間だった。
フォーマルな試みとしては、35mmフィルム、16mmフィルム、Super 8mmフィルム、HDヴィデオ、ディジタル・ヴィデオ、ヴィデオ8 の 6つ録画方式のヴィデオを使い、 Sir John Soane's Museum の骨董品的なコレクションを撮影させた作品 Inventry (2012)。 画面の質感の異なる大小6つの画面のちょっと不規則な組み合わせもスタイリッシュで、 それぞれ別々なものを捉えているようで、ふっと6画面が1つの物に収束するような所もスリリングに感じたけれども、 他の作品がナラティヴな傾向が強いだけに、撮影された題材に少々空虚さを感じるところもあった。
マルコ・ポーロ 『東方見聞録』 の抜粋朗読を流しつつ、 そこで取り上げられた地の現在の映像と、オランダ館内部の映像を大写しした 2009年の Biennale di Venezia でのビデオインスタレーション作品 Disorient (2009) も、朗読と現在の映像が関係ないようでふっと符号する瞬間の面白さはあった。
全体としては映像を多用した現代美術作品の薄さというかとりとめさなを感じつつも、 ふっと掴まれる瞬間もありつい見続けてしまう所もあった展覧会だった。