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Review: 『東欧アニメをめぐる旅 ポーランド・チェコ・クロアチア』 @ 神奈川県立近代美術館 葉山 (展覧会)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2015/01/12
Animation from East Europe: Creators in Poland, Czech, and Croatia
神奈川県立近代美術館 葉山
2014/9/27-2015/1/12 (月休;10/13,11/3,11/24,1/12開;12/29-1/3休), 9:30-17:00.

東欧三国四都市のアニメーションを紹介する展覧会。 取り上げられているのは、 Zagreb Film (1956年にアニメーション・スタジオを設立) のクロアチア・ザグレブ (Zagreb, HR)、 Se-ma-for (1947年設立) のポーランド・ウッチ (Łódź, PL)、 Jiří Trnka や Jan Švankmajer を輩出したチェコ・プラハ (Praha, CZ)、 Karel Zeman や Hermína Týrlová のスタジオのあったチェコ・ズリーン (Zlín, CZ)。 共産政権時代だけでなく、戦間期や東欧革命後の作品もとりあげられている。 チェコのアニメーションは上映会やDVDリリースや展覧会もあり、1990年代からそれなりに接する機会があった。 しかし、クロアチアやポーランドとなるとさすがに疎く、概観する良い機会かと、足を運んだ。

出展されていたのは、Disney に見られるような商業的なセルアニメーションやその延長としてのコンピュータアニメーションというより、 イラスト的な絵柄のアニメーションや人形やクレイなどの素材を使った実写も交えたストップモーション・アニメーションが主。 短編を中心とした作品が液晶モニタやプロジェクタのギャラリー内上映と、 原画やストーリーボード、人形や衣装、ポスターなどの関連資料が展示からなる展覧会だった。 展示されていた映像の総時間が約4時間半で、午後約4時間かけても観きれなかった。

クロアチアの Zagreb Film は、絵柄こそ極端にデフォルメされた風刺画風だったりイラスト風だったりするものの、 基本的に絵によるセル・アニメーション。サイケデリックかつエロチックな Zlatko Bourek: Mačka [The Cat] 『猫』 (1971) [YouTube] など、 1970年前後の西欧でのカウンターカルチャーの影響を強く感じる作品だった。 Krešimir Zimonić: Album 『アルバム』 (1983) も私的な回想という題材と絵柄、そして、現実と空想を接続するアニメーション的な変化が良かった。 風刺画的な絵柄によるアニメーションでは、抽象化のセンスもミッドセンチュリー風の Dušan Vukotić: Surogat [Ersatz] (1961) [YouTube]、 不条理な Nedeljko Dragić: Tup - Tup『トントン』 (1972) [YouTube]、 ナンセンスに近くも風刺も感じる Joško Marušić: Neboder [Sky-scraper] 『高層長屋』 (1981) [YouTube] などを楽しんだ。

ポーランドの Se-ma-for は、セルアニメーションから人形アニメーションまで。 Bolek i Lolek シリーズで知られる Władysław Nehrebecki による Wycinanki (ポーランド伝統のカラフルな切り絵) をアニメーションにした Za borem, za lasem 『森の向こう、林の向こう』 (1961) [YouTube]、 Tadeusz Wilkosz の袋の独裁者を風刺的に描いたストップモーション・アニメーション Worek [Bags] (1967) や うってかわって可愛らしい人形アニメーション Smok Barnaba [Barnaby the Dragon] (1977) を楽しんだ。 異色なものでは、部屋の中での30人程の人物の動きの実写を反復して「コラージュ」様に合成した Zbigniew Rybszynski: Tango 『タンゴ』 (1980) [Vimeo] も、ダンス作品を観るような面白さがあった。 東欧革命後の Marek Skrobecki の人形アニメーション二本、 不条理感溢れる Ichthys 『イクトゥス (魚)』 (2005) [YouTube]、 首の無い人々の住むディストピアを舞台にした Danny Boy 『ダニー・ボーイ』 (2010) [YouTube] も良かった。

チェコのものは、最盛期とも言える20世紀後半ではなく前半、戦間期から第二次世界大戦直後の黎明期とも言える時期の作品に重点が置かれていた。 Felix the Cat の二次創作のような Karel Dodal: Nové dobrodružství kocoura Felixe [The New Adventures of Felix the Cat] 『フェリックス・ザ・キャットの新たな冒険』 (1927) があったり、と、戦間期にはアメリカの商業的なアニメーションの影響も強かったことに気付かされもした。 その一方で、Karel & Irena Dodal: Myšlenka hledající světlo [Idea in the Search of Light] 『光を求める想念』 (1938) のような 純粋映画的な抽象アニメーションも撮っており、まだ大きく分化していなかったのだろう。 プレゼントの新しい人形と古い人形の間の少女の思いを描いた Karel & Borivoj Zeman: Vánoční sen [A Christmas Dream] 『クリスマスの夢』 (1945) [YouTube] や おもちゃ工房へ踏み込んだゲシュタポへ職人に代わっておもちゃたちが反撃する Hermína Týrlová & František Sádek: Vzpoura hraček [The Revolt of Toys] 『おもちゃたちの反乱』 [YouTube] など、 実写とストップモーション・アニメーションを交えた作品も、 戦争直後には既に完成度は高かったのだなあ、と、感慨深いものがあった。

上映会ではなく展覧会なので、作品については雰囲気を知る程度にざっと流して観るつもりだったのだが、 興味深い作品が多く、結局、閉館時間まで時間いっぱい見続けてしまった。 といっても、アニメーションのような映像作品は、美術館の展覧会のような形は見せるのには向いていない。 展示室での液晶モニタやプロジェクタ投影で、小さな音で半ば立見で観るというのは、まともな鑑賞環境ではない。 映画館での特集上映のような形で観たかったと、つくづく思った展覧会だった。