不条理演劇で知られる Ionesco の1959年の戯曲の舞台化。 言葉遊びのようなセリフを含め饒舌な戯曲を巧い演技で観せる、 凄いというほどではないですが堅い舞台を楽しめました。
ある日、街に犀が現れて騒ぎになるが、やがて街の人々が皆、犀になってしまう、という話を、 アル中寸前のダメ男ゆえに犀にならなかった/なれなかった Béranger を主人公として描いた話です。 戦間期に人々が全体主義に靡いていく様に着想したと言われる戯曲ですが、 11月13日のISILによるパリ同時多発テロの直後ということもあり、 特に第一幕のカフェで犀に襲われる場面など、それを連想させられました。 そういう連想をすること自体は陳腐というか、まさに恐怖や危機を煽るテロの手口に乗せられているようなもので、 この『犀』で「Ionesco の前衛劇とか観に行くべきだ」と Bérange に言い、早々に犀になってしまう Jean のよう。 そういう点で、観ていて苦笑せざるを得ない居心地の悪さも感じました。
この戯曲である程度覚悟していましたが、フランス語でセリフで駆動する饒舌な舞台は、厳しいものがありました。 確かに、第二幕の犀に襲われる Bérange のオフィスの場面、 危機的な状況を床を傾けるとこで俳優の不安定な動きを引き出すところなど、楽しんで観ました。 しかし、演劇でもセリフは控え目に、象徴的な身振り立ち位置で描くような舞台が自分の好みと、再確認したような舞台でした。