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Review: クラタ・フミンド (dir.) 『殿様ホテル』 (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2015/12/06

映画自主上映グループ シネマ△トライアングル が『発掘! 幻の映画シリーズ』として上映した 戦後まもなく制作された日本映画を観てきました。

『殿様ホテル』
1949 / 藝研 / 白黒 / スタンダード / 93 min.
シナリオ・演出: クラタ・フミンド [倉田 文人].
河津 清三郎 (殿様 花小路), 眞山 くみ子 (花小路夫人 朝子), 藤原 釜足 (支配人 早川), 吉川 満子 (帳場 やよい), 飯田 蝶子 (女中頭 てる子), 徳大寺 伸 (復員青年), 井川 邦子 (妹 女中 千代), 原 節子 (女スリ 長岡 アキ), etc

あらすじ: 戦後の民主化で特権を失った華族の殿様 花小路は、屋敷を庶民的な「家庭旅館」として、社会に貢献しようとする。 夫人はそれを嫌い、家を出ていってしまう。 戦争で身寄りを失った千代は、その旅館に女中として働き始める、次第に殿様と好意を寄せ合うようになる。 世のためを思って始めた旅館だが、客筋が悪く、酔っ払いや賭け事をする騒々しい客はもちろん、 女スリやヤミ屋などの犯罪者、お妾など。 旅館は度々騒動に見舞われる。 千代は休みの日にくじ屋で復員した兄と偶然出会い、旅館に連れて行くが、騒動に巻き込まれてピストルで撃たれて死んでしまう。 それをきっかけに、殿様は旅館の事業に嫌気がさして、離婚調停中の夫人や使用人たちに財産を残して、家を出でやり直すことにする。 そして、千代は殿様にお供することにした。

戦後の民主化で特権を失った元華族の殿様が屋敷を庶民向け旅館としたことによるドタバタを描いたコメディ。 殿様と女中の恋が出てくるもののその機微を細やかに描くわけでもなく、 庶民に理解があるようで殿様商売的なズレをユーモラスに描くものの戦前の特権階級の没落と庶民の台頭を風刺鋭く切り込むわけでもなく、 味わい深いとかそういう映画ではありませんでした。 しかし、客の引き起こすドタバタ騒ぎを音楽使いやカット割りもリズミカルに描くところなど、 コメディとしてなかなか楽しめました。

この映画は後の新東宝の取締役撮影所長 星野 和平が設立した藝研 (映画藝術研究所) の第1回作品で、 星野がマネージメントしていた縁で 原 節子 が特別出演しているということが話題の作品です。 しかし、先日観た 野村 浩将 (dir.) 『絹代の初戀』 (松竹大船, 1940) でのおてんばな妹役が印象的で、 気になっていた 井川 邦子 (河野 敏子) がヒロイン (殿様に見初められる女中) で、じっくり観られて嬉しかったです。 争議が終わった直後の東宝撮影所で撮影された映画ですが、 飯田 蝶子、吉川 満子、徳大寺 伸に 小林 十九二 (客の役) など俳優陣には 戦前の松竹映画でお馴染みの顔ぶれも多くありました。 しかし、恋愛や人情の機微を丁寧に描くことはなく、松竹映画とはテイストが違うとも感じた映画でした。