自閉症児を主人公としたイギリスのベストセラー小説を舞台作品化したもので、2012年制作の舞台ですが、 良い評判を聞くので National Theatre Live のアンコール上映を観てきました。
スウィンドンに住む数学が得意で宇宙飛行士になる夢を持つ15歳の自閉症児 Christopher は、父親 Ed Boone と二人暮らし。 ある晩、近所の Mrs. Shears の飼犬 Wellington が庭で殺された現場にいたことで警察に連れていかれたことをきっかけに、 その犯人探しをするうちに、犬殺しの犯人だけでなく両親の Shears 夫妻の秘密を知ってしまいます。 数学のAレベル試験に Christopher が合格するというハッピーエンドのようですが、 両親の離婚など苦いしんみりさせる部分も多い物語でした。
自分がこの舞台に興味を持ったのは、そういった物語の部分ではなく、 舞台装置を使わず、フロアをスクリーンに見立てた映像のプロジェクションと身体表現を駆使して空間を描く演出でした。 コンピュータで描いた映像プロジェクションを駆使した部分は、 この作品では自閉症患者から見える世界を描くという点で必然が感じられ、ギミックにぽく感じることはありませんでした。 特に良かったのは、スウィンドンからロンドンへの鉄道、そして、ロンドンの地下鉄の場面の描写。 床に車窓の風景の線描を投影して横になって演じたり、 駅の雑踏や車内の混雑の様子を数人の象徴的な動きで描いたり。 俳優をリフトすることもあり、コンテンポラリー・ダンスほどではないものの、 マイムというかフィジカルシアター的な表現は Simon McBurney / Complicité を連想させられました。 クレジットに Movement Directors というのがあるのも納得。 Movement Directors の2人 Scott Graham & Steven Hoggett のカンパニー Frantic Assembly も、面白そうです。
もちろん俳優も良く、自閉症児を演じきた Luke Treadaway も凄いと思いましたが、 いかにもイギリスのおばあちゃんという感じの Una Stubbs がツボにはまりました。 Mrs. Shears だけでなく Christopher の学校の校長先生を演じた Sophie Duval も良く、 女優が楽しめました。
フォトジェニックな舞台というか、映像で観ているからかっこよく見えているのかもしれません。 しかし、このようなフィジカルな演劇なら、できれば生で観てみたいものです。