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Review: Cie Non Nova: L'Apres-midi d'un Foehne - Version 1 @ 座・高円寺 阿波踊りホール (サーカス)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2016/07/10
L'Apres-midi d'un Foehne - Version 1
カンパニー・ノン・ノヴァ 『牧神の午後 version 1』
座・高円寺 阿波おどりホール
2016/07/09, 15:00-15:30.
Conception et écriture: Phia Ménard, assistée de Jean-Luc Baujault.
Interprétation: Jean-Louis Ouvrard.
Création: 2011.

Cie Non Nova は元 Cie Jérôme Thomas の Phia Ménard が1998年に設立した フランス・ナント (Nantes, FR) を拠点とするコンテンポラリー・サーカスのカンパニー。 ジャグリングを中心としたレパートリーが多いようだが、 2008年より I.C.E. (Injonglabilité Complémentaire des Eléments, 「ジャグリング不可能な相補要素」) という ジャグリングによらないプロジェクトにも取り組んでいる。 L'Apres-midi d'un Foehne - Version 1 は I.C.E. の作品の一つで、その中の “Pièce du Vent” 「風の作品」三部作の第1作にあたる。 残り2作 L'Apres-midi d'un FoehneVORTEX は2作合わせて上演されるようになっている。 L'Apres-midi d'un Foehne - Version 1 は、2013年の Edinburgh Fringe や London International Mime Festival 2014 で話題になっており [The Guardian記事]、 当時から生で観たいと思っていた作品だった。

L'Apres-midi d'un Foehne - Version 1 は、 「レジ袋」としても知られるスーパーマーケット等で使われる持ち手付きのポリマー製の袋 (ポリ袋) を人の形にして風で舞い踊らせる作品だ。 直径5mほどの円形の舞台の円周を6等分する位置に6台の送風機が内向きやや下向きに角度を付けて置かれていた。 奥に「花道」が作られ、作業机と送り出し用の送風機がもう一台置かれていた。 内向きやや下向きという6台の送風機の角度が絶妙で、 これで舞台中央の上昇気流と、舞台円周の下降気流を安定して作り出し、 ポリ袋を飛び散らさせずに舞わせるることを可能にしていた。 また、足となる袋の持ち手部にウェイトを付けて袋の姿勢を安定させていた。 動画で観ていたときは、アップ中心のカメラワークもあって、 どのようにコントロールしているのかよくわからなかったのだが、 舞台全体を観てなるほどと納得。 多くのポリ袋が舞うようになった中盤、ビニール傘を持ち出し開いて舞台中央に下向きに置くと、傘の中にポリ袋が人の手を介することなく自然に収まっていった。 傘の内側だけ上昇気流が無くなるためだが、これもなるほどと思わせる面白いアイデアだった。

といっても、ポリ袋が舞い踊って面白いというだけでは、30分ももたない。構成も巧みだ。 全て既に出来上がったボリ袋の人形を躍らすのではなく、 最初の一体をハサミとセロファンテープで作ることろから見せる。 これから踊らせるのは特製の人形ではなく、どこでもあるポリ袋にちょっと手を加えた程度のものだと示すように。 そして、その最初の一体をまず踊らせるのだが、ギリギリの風量で舞うか舞わないかといったところで、 L'Apres-midi d'un Foehne の Claude Debussy の音楽が流される。 すると、まるで静かに始まる音楽に合わせてポリ袋が身を震わすように踊っているように見えるのだ。 このように引き込まれると、後はポリ袋が踊っているようにしか見えなくなった。 踊るポリ袋の増やし方も、奥から風に乗せて送りだしたり、ステージを歩きながら懐からいくつもの袋を投げ出したり。 さすがジャグラーと思わせる、その身振りや投げ出すコントロールも良かった。 踊るポリ袋を肩にのせるかのようにしたりと戯れるようなほのぼのとした展開だけでなく、 最後にはハサミなどを使って舞っていたポリ袋をズタボロにし、その残骸が舞台中央に吹寄され、殺伐とした雰囲気で終わる。 単に綺麗で面白いものを観たで終わらせない後味を残す所も良かった。

海外での公演のレビュー等を読んで期待が大きかったので、 逆に物足りなく感じるのではないかと不安だったが、期待に違わず十分に楽しめた舞台だった。