神保町シアターの 『没後40年特別企画 女優・田中絹代』で、 上映された戦前のサイレント映画をピアノ生伴奏付きで観てきました。
原作は 川端 康成 の短編小説『伊豆の踊子』 (1927)。 後に度々映画化されることになるこの小説の、最初の映画化です。 ご存知のとおり、伊豆下田街道の美しい風景を背景に、 一高の学生 水原 と道連れのとなった伊豆の一人旅で旅芸人の一座との交流、 団員の踊子 薫 との淡い恋を描いた作品です。
この映画にあたっては、湯川楼の主人、山師 久保田 などの登場人物を加え、大きく話を膨らましています。 湯川楼の主人、山師 久保田、栄吉の3人はかつて共に金鉱探しした仲間で、 久保田と栄吉が先に諦めたことで、湯川楼が金鉱の富を独り占めしたこと。 湯川楼の若旦那 龍一 は水原の顔なじみの先輩ということ。 そして、湯川楼の主人は 薫のために貯金するなど、栄吉 たち旅芸人一座をことを密かに考えててやっており、 道楽者の栄吉が改心したら 薫 を息子 龍一の嫁に迎えるつもりでいるという設定が加わっています。 その結果、原作では身分違いの恋ゆえに諦めた淡い恋心だったのに対し、 映画では、先輩と相手のために身を引いた恋になって、わかりやすくメロドラマ的になってしまっていました。
成就する可能性の低い淡い恋心をもっと淡々と感傷的に描いたほうが好みですし、 当時の他の松竹メロドラマ映画に比べると登場する女優陣に華美さが欠けて、 文芸映画としてもメロドラマ映画としても半端な印象を受けました。 しかし、まだ20代前半の若くて庶民的な可愛らしさのある 田中 絹代 と、 相手役の 大日方 傳 のかっこよさだけでも、十分に楽しめました。 というか、主演の2人を魅力的に描くこと、この映画のメインはそちらなんでしょう。
実は、この映画は3年前に家で観ていたのですが、鑑賞メモなどを残すこともなく済ましてしまっていました。 大きく話が変えられていたことをすっかり忘れていました。 やっぱり、映画館と比べ家で観た場合、よほど意識的に観ない限り、細部の見落としが多くなりますし、印象も薄くなるなあ、と、つくづく。