Royal Opera House Cinema Season 2016/17 のラインナップ中、唯一のコンテンポラリー・バレエ作品。 ヨーロッパの国立バレエ団のコンテンポラリー作品はほとんど来日せず、Wayne McGregor の作品を観る機会が無かったので、これも良い機会と足を運んでみた。 2015年に初演されたこの作品は、戦間期にロンドンで活動したモダニズムの小説家 Virginia Woolf の3作品と Woolf の生涯に着想した、 3幕物というか3部作 (triptych) 構成の作品。
第1幕というか第1作は小説 Mrs Dalloway (1925) に着想した I now, I then。 主に回想で直線的に話が進行するわけではなく叙情的ですらあったけれども、予想よりもナラティヴな印象。 身体能力を見せるというよりアクロパティックながらマイムで心情を表現するようなダンスで、 ミニマルな演出のフィジカルな現代演劇を観てるよう。 夫 Richard Dalloway と若い頃に求婚された旧友 Peter Walsh の間で揺れる Clarissa Dalloway をロマンチックに。 しかし、一番印象に残ったのは、第一次世界大戦のPTSDで苦しむ Septimus Warren Smith。 ほとんど唯一の舞台美術である大きな枠にヘルメットが置かれたり、それが静かに回収されたりする所など、象徴的にすら感じた。 我ながら意外だが、3部作中、最もナラティヴな I now, I then が楽しめた。
第2作は小説 Orlando (1928) に着想した Becomings。 一転して、いかにもコンテンポラリーなノンナラティヴな演出。 うねうねした、しかしキレのいい動きを堪能することができた。 原作は16世紀エリザベス1世の時代から現在 (20世紀の戦間期) までの時間を旅する話だが、 金色の衣装や、スモークにレーザを使った演出は、SF的な未来の旅を思わせるものだった。
第3作は小説 The Waves (1931) に着想した Tuesday。 エンディングなどパ・ド・ドゥもあるが、大きく映されたモノクロの波の映像の前で群舞が印象的。 I now, I then が演技、 Becomings が身体能力で見せる演出としたら、 Tuesday は落ち着いたアンサンブルで見せる演出。 しかし、群舞といってもフィナーレに向けて派手に盛り上げるものではなく、時間が短めということもあってか、少々蛇足にも感じられた。
それにしても、第1作と第3作で主役を踊ったのは御年50歳という Alessandr Ferri。 さすがの演技力ということもあるが、 身体能力を見せつけるような踊りではないものの、あれだけよく身体が動くものだと感心しながら観ていた。
水曜に Большой балет: Светлый ручей [レビュー]、 金曜に Ballet de l'Opéra national de Paris: Ballets Russes [レビュー] そして土曜に Royal Ballet: Woolf Works と。 週後半にバレエのイベントシネマ上映3本を立て続けに観たわけですが、 やっぱり Woolf Works が最も楽しめたなあ、と。 コンテンポラリー作品の上映の機会も、そして来日公演の機会も、もっと増えて欲しいものです。