東京国立近代美術館フィルムセンターの特集上映 『日本におけるチェコ文化2017 チェコ映画の全貌』 のプログラムでピアノ生伴奏 (演奏: 柳下 美恵) 付きサイレント映画上映を観てきました。
あらすじ: 工場主の Pardon 氏は仮装パーティで偶然会った Stefanie と恋に落ち、 親が決めた会ったことの無い婚約者 Fifi から逃れるため、叔父の Cyril を身代わりに立てる。 Cyril は Fifi のアプローチから逃れるために、実は悪党 Kanibal だと嘘をつくが、 スリルに憧れる Fifi はますます言い寄られてしまう。 Stefanie とその母 Olga と鉄道旅行中、車窓から Pardon 氏を見かけて、 車酔いのふりをして列車を降りて、偶然を装って Pardon 氏と再会を果たす。 Pardon 氏は Olga と Stephanie を連れて館に戻るが、 Cyril は Olga が昔に逃げ出した妻だと気付いて、悪党と偽ったまま Fifi と逃避行する。 犯罪者としては間抜けな Cyril と Olga はあっという間に追われる身になってしまい、 Cyril は Kanibal の身代わりの形になって警察に捕まってしまう。 Pardon 氏は 無実を証明して Cyril を救い出す。 Fifi の不品行を理由に Pardon 氏との婚約は解消となり、Pardon 氏は無事 Stefanie と結ばれた。
物語はたわいないものですが、戦間期の上流階級の Art Deco な意匠もふんだんに、モダンで楽しいドタバタ喜劇が堪能できました。 特にフラッパーというかぶっ飛んだモガお嬢様を演じた Anny Ondráková (Anny Ondra) の体張った演技が素晴らしい。 女優がここまで体張ってるサイレント期のコメディ映画というのは、他に思い当たりません。 相手役の Cyril を演じた Vlasta Burian も、 Vlasta Burian はロシア・アヴァンギャルド映画でお馴染み Владимир Фогель [Vladimir Fogel] を少し老けさせたような風貌で、いい感じ。 Vlasta のボケに Anny がつっこむ夫婦漫才のように見えるときもありました。
Cyril がたわいない嘘に始まり嘘を重ねるうちにどハマりしていくという展開は、コメディの定番ですが、 正直に言えば自分の苦手なパターンなので、見てられない場面もあったりしました。 しかし、モダンな雰囲気だけでなく、 Fifi の運転する暴走自動車のアクションや、最後に街中で繰り広げられる Cyril / Kanibal の大捕物など、迫力のあるアクションを伴う笑いなど、 見所の多いコメディ映画でした。
あらすじ: 鉄道員の娘 Andrea は、父が泊めた旅行客 Georg に誘惑されて、一夜を共にしてしまう。 Andrea は Georg を忘れられず、一人都会に出て Georg の子を産もうとするが、死産してしまう。 Geoeg はアニストで、ブルジョワ Hilbert の夫人 Gilda の愛人でもあり、Andrea の父に手切れ金を送りつける。 Andrea 産院を追い出されて彷徨い、乗せてもらった荷馬車の御者に襲われそうになったところを、自動車で通りがかったブルジョワ階級の男 Jean に救われる。 救った Jean も刺されてしまったが、Andrea の輸血により一命を取り留め、これが縁で二人は夫婦となる。 Jean が Andrea のためにピアノを買おうとして、店で Andrea と Georg は偶然再会する。 ピアノを譲ってもらったことで Georg と Jean は友人となり、Georg は Jean の家に頻繁に訪れるようになる。 かつての一夜が忘れられない Andrea は再び Georg に惹かれはじめるが、 それに気付いた Jean は Andrea と2人で旅に出て2人に距離を置かせようとする。 Andrea は置き手紙して Georg のもとに走るが、Gilda との別れ話の直後の Georg の部屋で他の女の痕跡に気づく。 さらに、妻の浮気の証拠を掴んだ Hilbert が Georg の部屋に乗り込んで来て、Andrea は一人で部屋を逃げ出す。 Georg は Hilbert に撃たれる。 Andrea は置き手紙が読まれる前に家に戻り、Jean と旅に出ることにしたのであった。
主役 Andrea を演じた Ita Rina をはじめ美男美女の織りなすメロドラマを堪能することができました。 svůdce (seducer, 女たらし) の Georg や浮気妻 Gilda のような登場人物もいますが、 Andrea のような登場人物は、あっけらかんと非道徳的な Ernst Lubitsch の映画とは違う、道徳的な教訓も感じさせるようなところも。 といっても、説教臭さをほとんど感じさせなかったのは、Ita Rina の強い視線の美しさと、 男女の機微を丁寧に描写するスタイリッシュな映像のおかげでしょうか。 今の視点からするとたいしたことはないのですが、当時はかなりエロティックな描写と取られていたのかもしれません。
ほとんど予備知識無しに、たまにはピアノ伴奏付きでサイレント映画を観るのも良いかと足を運んだのですが、期待以上のレベル。 ドタバタ喜劇にどメロドラマと対照的な映画と登場人物像でしたが、 Anny Ondra と Ita Rina というモダンで美しい女優が堪能できましたし。 観て良かったな、と。 最近は北欧のサイレント映画を観る機会はそれなりに増えたように思いますが、 中欧にも今回観たような映画がまだまだあるんだろうなあ、と。