1970年代にニューヨーク拠点に活動し、1978年に35歳で夭折した現代美術作家の回顧展。 再開発エリアの使われなくなった建物を切断したり穴を開けたりする ”Building cuts” のプロジェクトで知られている。 ”Building cuts” については、今までも写真やビデオ、図面などで見たことはあったし、 今ならビデオプロジェクション程度で済ましてしまうことが多いだろうが、 実際に建物を半ば破壊的に手を加え「空間を変容」させてしまう力強さや面白さを感じていた。 しかし、写真やビデオなどの資料では、実際にどのように穴を開けていたのか全体像を掴みづらいものがあった。 今回、展示されていた1:8模型を見て、なるほどこのようになっていたのかと腑に落ちた。 また、このような作品の背景として、1970年代のニューヨークは治安が悪化し富裕層が郊外へ移住し人口が流出し、都市問題が噴出していたこと、 そして、Gordon Matta-Clark が作品とできるような建築物が多くあったことにも気付かされた。
確かに、1971-73に運営したレストラン FOOD は、オルタナティヴスペースの先駆とも言えるものとは思うけれども、 Matta-Clark の活動を「都市への介入」とまで言うのは過大評価なようにも感じられてしまった。 1973年以降、「メタファーとしての空隙、隙間、余った空間や、放置されたまま活用されない空間」あるいは「もし機能があるとしてもあまりにばかばかしいので、機能という考え方自体が馬鹿にされてしまっているような空間」を見いだそうと “Anarchitecture” というグループによる活動を展開したとのこと。 これには、赤瀬川 原平 の『超芸術 トマソン』 (1982) やトマソン探しをした「路上観察学会」も連想させられた。 テイストはかなり異なるわけだけど、Anarchitecture から『超芸術 トマソン』への影響はあったのかもしれない。 そして、Matta-Clark のクールで強力な作風 (実際に建物に手を入れてしまう) と、 赤瀬川 原平の力の抜けた諧謔味の違いも – 時代やお国柄の違いというより作家の個性の違いと思うが – 興味深く感じられた。