ふじのくに⇄せかい演劇祭 2019 の初日に、まずはこの舞台を観ました。
コンテンポラリー・サーカスとコンテンポラリー・ダンスの両方をバックグラウンドに持ち、 CCN2 - Centre Choreographique National de Grenoble の芸術監督を務める Yoann Bourgeois が、 パリに2018年に開館した劇場 La Scala Paris の杮落し公演として初演した作品です。
大きく3段となったステージに、その中央に階段が設けられていて、 中段の上手に玄関風のドア、その上段にはベッドが置いてあってベッドルーム風。 中段の下手には食卓風テーブルに椅子が2脚と少し離れて1脚、クローゼットがあって、壁には額が3枚かけられ、 隣室に繋がってそうなドアがあるという、ヨーロッパのアパートメントを思わせる舞台です。 中段の後方にはトランポリンが置かれ、さらに床や壁のあちらこちらに隠し扉が設けられていて、 テーブルや椅子は内蔵のワイヤを緩めると崩折れる構造で、これらがトリッキーな動きに活用されていました。 Arts du cirque と謳っていますが、分かり易く高難度な技の見せ場あったり、 演劇的に明確なストーリーがあったりすることはなく、少々抽象度の高くイメージを繋げていくようでした。
以前に動画で観た The Mechanics of History (Panthéon, Paris, 2017-10-14) [YouTube] で使われていた、自然に倒れ落ちてトランポリンの反動でまるで時間を逆回転したかのように戻ってくる動きが、この作品でも多用されていました。 もちろん生で観るこの動きは面白く、終盤近くの中央の階段の上方から男性4人のパフォーマーが 左右のトランポリンに落ち戻ってくる動きなどは、ダイナミックで見応えもありました。 しかし、椅子やテーブルと共に崩折れ、這いずり、床や壁に (隠し扉を使って) 吸い込まれていくような動きが多用されていて、 それが日常が溶解していくようなシュールさを生み出していました。 特に中央の階段を解け流れるように背中や尻を巧みに使って降りていく場面が、面白く感じられました。 特にそのような場面では、2人の女性パフォーマー、崩折れる様も見事な Valérie Doucet と、さりげなく軟体技を使う Florence Payrard の動きに目が止まりました。
舞台装置が暗示するような日常の生活空間が、ぼんやりとした不安や不穏の中で、 そこに同居する人々の日常がうっすらとした悪夢のようになっていくよう。 そんなシュルレアリスティックなイメージを思わせるパフォーマンスが楽しめました。
ギリシャ悲劇に基づく韓国のカンパニーによる作品です。 原作に忠実、というほどではなく、特に主役の Medea を二人一役にして子殺しをする Medea の二面性を描くことを狙ったという演出がされていました。 セリフが主導するストレートプレイというより、歌や踊りを多用して様式的に物語る演出は良いのですが、 肝心の二人一役については、主に演じる側が固定されていたせいか、あまり二重に感じられませんでした。 感情を強く表出させるような演技というのも、自分には少々苦手に感じられてしまいました。