TFJ's Sidewalk Cafe > Dustbin Of History >
Review: 溝口 健二 (dir.) 『浪華悲歌』 (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2019/08/22

国立フィルムアーカイブの上映企画 『シネマ・エッセンシャル 2019』 で、この映画を観てきました。

『浪華悲歌』
1936 / 第一映画 / 白黒 / 72min.
監督・原作: 溝口 健二. 脚本: 依田 義賢.
山田 五十鈴 (村井 アヤ子), 梅村 蓉子 (麻居 すみ子 (惣之助夫人)), 大倉 千代子 (村井 幸子 (アヤ子の妹)), 大久保 淸子 (横尾 さだ子 (医師夫人)), 浅香 新八郎 (村井 弘 (アヤ子の兄)), 志賀迺家 辨慶 (麻居 惣之助 (薬種問屋主)), 進藤 英太郎 (藤野 喜藏 (株屋)), 田村 邦男 (横尾 雄 (医師)), 竹川 誠一 (村井準造 (アヤ子の父)), 原 健作 (西村 進 (麻居店員)), etc

あらすじ: 大阪の薬種問屋で電話交換嬢として働くアヤ子には、思いを寄せる店員 西村がいたが、 家は貧しく、飲んだくれの父は会社の金を使い込んだとして追い詰められていた。 アヤ子はその金を弁償するため、家出して、電話交換嬢を辞め、かねてから言い寄ってきていた問屋主 麻居の妾となった。 アヤ子は、麻居と文楽観劇中に麻居夫人に見咎められるが、麻居の知人である株屋の藤野の機転で難を逃れる。 逃れて行ったデパートで、偶然、西村と再会し、カフェで求婚されが、アヤ子は麻居の妾であることを明かせず、求婚を受けずにその場を去る。 その後、麻居の主治医 横尾が妾宅へ行くべきところ間違えて本宅へ行ってしまったため、麻居夫人に妾宅に乗り込まれることになる。 麻居夫人に結婚相手を探すと言われ、アヤ子は事の経緯を打ち明けた上で 西村 の求婚を受ける決意をする。 西村の所に向かう途中、アヤ子は妹と遭い、学費を工面できずに兄が帰ってきていることを告げられる。 そこで、兄の学費のため、アヤ子は藤野から騙し取る。 その後、西村を妾宅に呼んで、事情を打ち明けた上で、結婚したいと言う。 そこに藤野が踏み込んでくるが、用心棒がいると西村の後ろ姿を見せて、追い返してしまう。 結局、警察がやってきて、アヤ子と西村は逮捕されてしまう。 取調で、西村が自分はアヤ子に騙されていたと供述しているのを、アヤ子は聞いてしまう。 西村はすぐに釈放され、アヤ子も初犯ということで父に身元引受されて釈放される。 実家に戻るが、兄や妹に家に帰って来るなと言われ、アヤ子は再び家を出る。 行く宛の無いアヤ子が橋に佇んでいると、医師 横尾 が通りかかり、病気かと尋ねられる。 アヤ子は不良少女という病気だと答えるのだった。

貧乏故に、電話交換嬢から妾となり、さらに男から金を騙し取る「不良少女」へ転落し、 恋人や家族にも冷淡に対応されるというバッドエンドの物語です。 しかし、アヤ子はそんな不幸に対して、身の不幸を嘆くというより、立ち向かうようなキャラクタというとこもあって、後味はカラッとした映画でした。 アヤ子の旦那となる麻居が妻に頭が上がらないボケのキャラクタで、 救いの無いハードボイルドな物語の中では、麻居が夫人に対してへまをする場面など、良いコメディリリーフになっていました。 職業婦人時代の銘仙の和装から、妾になってからは島田髷を結って豪華に和装し、その後がモダンな洋装の「不良少女」となるアヤ子の服装の変化も象徴的。 狭い日本家屋のアヤ子の実家と、妾宅のアール・デコ風の住之江のアパート (今で言うなら高級マンション) の対比も、印象に残りました。 麻居夫人が妾宅に乗りこんで、麻居を追い出した後、アヤ子と2人でしみじみ話する場面があるのですが、 この物語の中でのアヤ子の一番の理解者は、実は麻居夫人だったのかもしれないな、と思ったりもしました。

戦前日本映画は松竹大船映画を多く観てきているわけですが、 カラッとしたハードボイルドな描写 (特に、アヤ子が藤野を騙す場面以降) といい、笑いの盛り込み方といい、 松竹大船の作風とは異なり、映画における戦前モダニズムといっても多様だったのだな、と。 舞台が大阪で、セリフは全て関西弁 (といっても現代のお笑いでの関西弁では無い) というのも新鮮でした。 アヤ子が旦那と文楽を観に行く場面があるわけですが、東京が舞台の松竹映画でよく出てくる歌舞伎の場面も、大阪が舞台だとこうなるのかと。 そういう意味でも、新鮮に楽しめた映画でした。