鉄を素材とする彫刻というより立体作品を得意とする1980年代から活動する美術作家の個展です。 越後妻有トリエンナーレなどの国際美術展でサイトスペシフィックなインスタレーションとも言える作品を観たことはあれど、 美術館での個展は観たことが無かったので、良い機会かと足を運んでみました。
府中市美術館の展示室に合わせて制作された新作がメインですが、最初期の1981年の作品など過去の作品も交えています。 鉄を素材に使い、作品の大きさも、初期のものでも1〜2mはあり、最近のものでは5mから高いものでは10mはあろう規模になっていますが、 実際の重さはさておき、見た目がマッシヴに感じられないのは、見通しが利く透けた構造だからでしょうか。 新作『霧と鉄と山と』にしても、近くで見るとゴツいテクスチャがあるとはいえ、個々のパーツが円形で、柔らかい滑らかな山形という形態というのも、重さを感じさせません。 卵を使った1990年代の作品や、カラフルな石鹸を使った新作、大きな作品の中での波板使いなど、 ソフトなものとのコントラストをわかりやすく示したものもありますが、 重厚な素材だけで描く軽さが面白く感じました。
府中市美術館の展示室は、古美術品や日本画などの展示を意識したか、壁がガラスの展示ケースとなっています。 最初に展示をざっと通して観た時は、そんなガラスの展示ケースが、現代美術のインスタレーションをする空間に合わないように感じました。 しかし、通して観た後に、改めてゆっくり作品を観ていて、照明が付いて白っぽい展示ケースに映った鉄の造形が、 まるで濃い霧の中にぼんやり浮かび上がる山のよう。 深読みしすぎかもしれませんが、一見空のようですがIの方の展示室の展示ケースには波板が等間隔で下げられていましたし、ガラスに映った姿が「霧」だったのか、と。 そんな見え方も面白く感じられたインスタレーションでした。