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Review: Metropilitan Opera, Phelim McDermott (prod.), Philip Glass (comp.): Akhnaten 『アクナーテン』 @ Metropolitan Opera House (オペラ / event cinema)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2020/02/24
『アクナーテン』
from Metropolitan Opera House, 2019-11-23, 13:00–16:15.
Composed by Philip Glass. Llibretto by Philip Glass in association with Shalom Goldman, Robert Israel, Richard Riddell, and Jerome Robbins. Vocal text drawn from original sources by Shalom Goldman.
Production: Phelim McDermott.
Set and Projection Designer: Tom Pye. Costume Designer: Kevin Pollard. Lighting Designer: Bruno Poet. Choreographer: Sean Gandini.
Cast: Anthony Roth Constanzo (Akhnaten), Dísella Lárusdóttir (Akhnaten's mother), J'Nai Bridges (Nefertiti, Akhnaten's wife), Zachary James (Amenhotep III), Richard Bernstein (Aye, Nefertiti's father), Aaron Blake (High priest of Amon), Will Liverman (General Hremhab), et al.
Skills ensemble: Sean Gandini, Kati Ylä-Hokkala, et al.
Conductor: Karen Kamensek.
World Premiere: Staatstheater Stuttgart, Stuttgart, 24 March 1984.
This production was originally created by English National Opera and LA Opera. This production's premiere: London Coliseum (English National Opera), London, 4 March 2016.
上映: 東劇, 2020-02-23 18:30-22:10 JST.

Akhnaten は、 Minimal music の作曲家と知られる Philip Glass が1970年代後半から1980年代前半にかけて作曲した The Portrait Trilogy と呼ばれる三部作の最後の作品です。 Robert Wilson 演出で知られる1作目 Einstein on the Beach (初演: 1976) をはじめ Glass を有名にした三部作の作品の一つですし、 今回上演された Phelim McDermott のプロダクションも ジャグリングを大きくフィーチャーした演出が2016年の English National Opera 初演時に話題になっていたので、 今回の Met Live in HD での上映を楽しみにしていました。

舞台は古代エジプト第18王朝 (新王国時代) の紀元前14世紀半ば、 それまでの多神教の信仰からアテン (Aten) のみを信仰する一神教への改革 (この時に建設された新首都アマルナ (Amarna) からアマルナ革命とも呼ばれる) を試みた国王 アメンホテプ4世 (Amenhotep IV) ことアクエンアテン (Akhenaten) に関する作品です。 (このオペラではアクナーテン (Akhnaten) と呼んでいます。)

父アメンホテプ3世 (Amenhotep III) が最初の場面の死の後、語り手となるのですが、 英語によって語られるのは近代的な登場人物の内面描写ではなく大きな歴史語りでの場面説明で、 改革とその挫折の群像劇の世界に引き込むような演出ではありません。 考古学的な資料から採られたという古代エジプト語や古代ヘブライ語の言葉を用い、 Minimal music らしく執拗に反復されるフレーズからなる音楽はもちろん、 ゆっくりと様式的な歌手の所作や、ジャグラーたちの振付もあって、 時に恍惚的な、時に瞑想的な儀式に参加しているかのような全3幕3時間半でした。

演出を手がてた Phelim McDermott はイギリスの演出家で、 English National Opera で度々演出を手がけていて、 2008年にも Glass のオペラ Satyagraha を演出しています。 旧体制である多神教の世界、首都テーベ (Thebes) の場面では、登場人物の衣装も過剰に装飾的で、 三段の高さに組まれた足場にジャグラーやコーラスが並んで様式的な動きをすると、遺跡の壁に書かれたヒエログリフのようにすら感じました。 といっても衣装は、必ずしも古代エジプトを意識したものではなく、 18世紀末から19世紀にかけての西洋の服装にシュールな装飾を過剰に付けてエキゾチックにしたもの。 主役 Akhnaten の衣装はロココの Robe à la française がベースになっていましたし、 旧体制派の3人も山高帽と紳士服だったりナポレオン戦争の頃を思わせる軍服だったり。 インタビューではヴィクトリアン・スタイルを参照したと言っていましたが、もう少し前の時代という印象を受けました。

その一方で、一神教の世界、新首都アマルナが舞台となる第2幕後半では、 衣装も長くシンプルなローブとなり、 足場は脇に引かれ、美術は吊るされた大きな球体、そしてそこに登るかのように置かれた階段のみ。 多神教と一神教の世界を一目でわかるよう視覚的に表現するのは、さすがです。 唯一英語で歌われるアリア Hymn の場面では、 ゆっくりとした様式的な所作と色の移ろうライティングを使ったミニマリスティックな演出に Robert Wilson の演出を連想させられました。

幕間の McDermott へのインタビューによると、ジャグリングを使う着想は音楽からのイメージが先で、 紹介されて会った Gandini に最古のジャグリングの記録が古代エジプトの壁画であることを教えられたとのことでした。 Gandini のダンス的とも言えるジャグリング振付もあってか、 Minimal music の可視化という点でも、様式的な儀式的所作との相性という点でも、演出にうまくハマってました。 主に白いジャグリング・ボールを使っていましたが、舞台の上で沢山の白いボールがひょいひょいと繰り返し動く様は、 オーケストラの音数多いながら細かいフレーズがポリリズミックに反復する音楽を見るよう。 背景としてジャグリングしている場面が多いのですが、 それだけでなく、第2幕頭の革命の場面ではクラブ (棍棒) を武器に見立てて戦いを演出したり、 第2幕後半ではミニマリスティックな舞台で約 1 m 大のバルーンのような球をふんわりジャグリングして理想の世界を演出したり。 ジャグリングするのは Skills ensemble とクレジットされた黙役の12名のジャグラーだけでなく、 コーラスにボールを一つ持たせてトスさせる場面も少なからず、 Zachary James 演じる進行役 (Amenhotep III) がジャグラーたちに混じって三つ玉のジャグリングをする場面もありました。

振付を担当したジャグラーの Sean Gandini は、 ジャグリングを主な技をして使うロンドンの現代サーカスカンパニー Gandini Juggling を主宰しています。 1992年で結成で2004年に London Internatinal Mime Festival に初出場して以来、その常連的な存在です。 彼らを有名にしたのは、Pina Bausch へのオマージュ作品 Smashed! (2010) [Vimeo]。 4 x 4: Ephemeral Architectures (2015) [Vimeo] では、Royal Ballet の Ludovic Ondiviela の振付でバレエとコラボレーションしてもいます。 舞台作品としての最新作 Spring (2019) [YouTube] も コンテンポラリーダンスの文脈で活動する振付家 Alexander Whitley とのコラボレーションです。 Gandini Juggling はジャグリングとコンテンポラリーなバレエ、ダンスとの融合の最先端を行っているカンパニーです。

Metropolitan Opera の Akhnaten に出演するために New York へ行った際でしょうか、 2019年12月にブルックリンの National Sawdust に Gandini Juggling が出演した際の動画が、 カンパニーの公式 YouTube チャンネルにアップロードされています。 一つは Steve Reich の Clapping Music の juggling version [YouTube]。 もう一つは、György Ligeti の Poème Symphonique for 100 Metronomes に着想した作品という The Metronome Piece [YouTube]。 いかにも彼ららしい選曲です。 The Metronome Piece では、 Akhnaten でタイトル役を歌った Anthony Roth Costanzo も出演しています。