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Review: Anca Damian: L’extraordinaire voyage de Marona [Marona’s Fantastic Tale] 『マロナの幻想的な物語り』 (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2020/09/13
『マロナの幻想的な物語り』
2019 / Aparte Film (Romania)/Sacrebleu Productions (France)/Minds Meet (Belgium) / colour, 1.85:1, DCP / 92min
A film by Anca Damian.
Original script by Anghel Damian after an idea of Anca Damian.
Characters design: Brecht Evens; Backgrounds: Gina Thorstensen, Sarah Mazetti
Original music: Pablo Pico.
Producers: Anca Damian, Ron Dyens, Tomas Leyers

ルーマニア出身の監督による、犬 Marona の一生を描いたアニメーション作品です。 作品や作家の背景には疎いものの、 海外、それも非英語圏のマンガ的なキャラクタデザインでは無いアニメーションということで、観てみました。 オリジナルはルーマニア語版とフランス語版が作られたようですが、日本公開に合わせて日本語吹替版も制作されていました。 今回観たのは日本語字幕付きフランス語版です。

風刺画もしくはアウトサイダーアートを思わせる非写実的で極彩色のキャラクタや風景が 変形するように動き、ナレーションに近いセリフと共に、物語を進めていきます。 色彩や形態の自由連想で展開していく形式主義的な展開も少なくないのですが、 そんなスタイル的な実験に始終することなく、 犬の視点から必ずしも良好とは言えない飼い主との関係をナラティヴに描いていきます。 絵の動きの面白さもありますが、時に勝手な一連の飼い主たちと無償の忠実さを見せる Marona の関係がせつないアニメーション映画でした。

主人公の犬 Marona の交通事故による死の場面が冒頭にあり、 死の間際の Marona の回想としてその一生を描くというのは、少々メロドラマチックに感じられました。 特に、最初の飼い主 Manole との関係はかなりロマンチックに描かれていて、 Manole が良い仕事が得られるよう Ana (Manole が付けた Marona の名前) が自から出ていく 別れ際の独白は、犬目線というよりも、恋人の別れの言葉のよう。 次の飼い主 Istvan の車での移動中、街の風景の中に Ana を探す Manole のチラシが映ったのも、せつないです。

リアリズム的な描写では無いこともあり、Marona の独白は、時に飼い主に忠実な犬の言葉のようであり、時に勘のいい人間の女性の言葉のよう。 そんな Marona の内面描写に、表現技法がリアリズム的だったり説明的になり過ぎない距離感もあって、 一見奇抜なビジュアルながら、自然に感情移入して、せつなさを感じつつ観ることができました。 (例えば、動物ドキュメンタリ的な映像にこのセリフを被せられたら、動物に勝手に人間的な内面を投影するな、という気分になっていたのではないかと思います。)