Cyrano de Bergerac は粗筋を知る程度、 映画俳優としても知られる主演の James McAvoy の出演映画を観たことも、 演出の Jamie Lloyd についての予備知識も無く、守備範囲外かとも思っていたのですが、 National Theatre Live で延長上映となるほどの評判なら観ておいても良いかもしれない、と足を運んでみました。
原作の Cyrano は17世紀フランスの cadet (貴族子弟の士官候補生) ですが、 それを現代の欧米の軍隊の下士官に置き換えられていました。 詩人という設定は現代のラップ的なポエトリー・リーディングに優れた者として、 醜男という設定はそうであるという自意識に囚われている者という設定とされていました。 その周囲の男性たちは、いかにも現代的な兵士 (それも志願兵や傭兵) を思わせるゴツい男ばかり。 Christian が口下手なのも、その出身の社会階級によるものかのように描かれていました。 また、Roxanne は、大人しい文学少女というより、むしろ知的で快活な、現代的な女性となっていました。
前提知識不足でそういった翻案の妙が楽しめたわけでは無いのですが、 Cyrano 演じる McAvoy の圧の高い演技が発するオーラにぐいぐいと引き込まれました。 舞台美術は、方形の素の大箱を置いただけのようなシンプルなもので、後方の壁が上がると階段状の雛壇が現れる程度。使う道具も椅子程度。 格闘シーンなどもありますが、基本的にその雛壇やその前での立ち位置や、 椅子の並びや座る向きなども使って、象徴的に場面を描いていきます。 例えば、Roxanne と Christian の接吻の場面から De Guiche の横恋慕の場面にかけての 4人が並んだ椅子にかける順と向きを変えつつ会話で場面を描く演出や、 Cyrano と Christian が送られた戦場の場面での階段上雛壇使いなど。 National Theatre Live の字幕付きという助けも大かったかと思いますが、 そんなミニマリスティックな演出も楽しめました。