東京都写真美術館1Fホールと恵比寿ガーデンシネマの両方で 海外のアニメーション映画を上映しているので、ハシゴして2本観てきました。
19世紀末ロシア、探検家の祖父を持つ貴族のお嬢様 Sasha が 北極海で消息を経った祖父の乗った船 Davaï 号を探しに向かうという冒険物語を描いた、 フランスの作家によるアニメーション映画です。 舞台はロシアですが、セリフは全てフランス語。 画面中のメモ等は英語やフランス語 (看板などはロシア語混じり) でした。 シルクスクリーン版画の様な枠線の無いフラットな色面からなるシンプルで柔らかい色合いの絵が美しいのですが、 シンプルな造形ながら、北極探検でのスリリングな動きはもちろん、主人公の繊細な心理描写を描く細やかな動きも良いアニメーションでした。
ロシアの貴族の家の少女 Sasha は祖父の思い出に拘り、社交界デビューで祖父を嫌う王子と衝突。 Davaï 号を探しに、家出してサンクトペテルブルグから汽車で北極海に面した港町アルハンゲリスクヘ。 そこで、船乗りに裏切られて一文無しで取り残されるも、酒場の女将 Olga に同情されて住み込みで働き、船が戻るのを待ちます。 そして、ついに Lund 号への乗船が許され、Davaï 号を探す探検航海へ乗り出します。 その後、氷山の崩壊で Lund 号を失い、雪原の中の厳しい旅が続きますが、 ブリザードの中で祖父の遺体と航海日誌に行き当たり、ついに Davaï 号を発見します。 絵も美しいのですが、気が強いだけの世間知らずのお嬢様が、そんな旅を通して逞しく精神的に成長していく様の、さりげなくも丁寧な描写、 例えば、Olga での酒場での成長をセリフを一切使わずに酒場での生活の断片のモンタージュだけで描くような所が、実に良いです。
少女の精神的な成長を丁寧に描くいたアニメーションという点で 『アルプスの少女ハイジ』 (瑞鷹, 1974) やそれに続いた『世界名作劇場』 (日本アニメーション) にも近く、 長編映画ではなくTVシリーズでじっくり観たかったようにも思いました。
アイルランドのアニメーション・スタジオ Cartoon Saloon の Tomm Moore による “Irish Folklore Trilogy” (日本では「ケルト三部作」と呼ばれる) の、 The Secret of Kells (2009)、 Song of the Sea (2014) に続く第3作で、 イングランドの護国卿 Oliver Cromwellに侵攻された17世紀アイルランドに着想した冒険ファンタジー・アニメーション映画です。 (残念ながら第1, 2作は未見です。) あえて遠近法を排して描かれた木版画とドローイングを組み合わせたような素朴ながら描き込みの多い絵柄の、 動く絵本のようなアニメーションでした。
舞台はイングランドの侵略が進む17世紀アイルランドの街キルケニー。 イングランドから狼狩として雇われやってきたばかりの Bill の娘 Robyn と、 寝ている間は狼となる wolfwalker (夢遊病患者 sleepwalker のもじりか) の少女 Mebh の出会いと交流を通して、 都市と自然、権威主義と自由、プロテスタント的なキリスト教とケルト的な異教、イングランド人とアイルランド人の対立といったものの共存の可能性を問うような物語です。 この対比が、木版画風な直線的な絵とドローイング風の丸っこい絵で描き分けられて視覚化されていたのも良かったです。 絵が美しいだけでなく、自然の中で Robyn と Mebh が自由に走り回る動き、 Robyn や Bill の葛藤の繊細な心理描写などの、アニメーション表現も素晴らしいです。 狼になった時の視覚ではなく嗅覚や聴覚を通しての「見え方」の表現もアニメーションならではでしょか。
この夏に『もののけ姫』 (スタジオジブリ, 1997) を映画館んで観る機会があったのですが、 その時に、この映画の世界は、中世ファンタジーにおける中世ヨーロッパ風のイメージを中世日本風のイメージで置き換え、 そこでのケルトとか北欧とかの古代の異教の要素に対応するものとしてエミシを持ってきているようだと感じていました。 Wolfwalker は、その時に頭で想像したヨーロッパ中世ファンタジー版『もののけ姫』に近く、 現代に続くアイルランド問題への視点も感じられ、 まさにこういう映画が観たかったんだと、観ながら思ってしまいました。