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Review: Simon Godwin (dir.) starring Lindsay Duncan & Alex Jennings: Hansard by Simon Woods 『ハンサード』 @ Lytttelton Theatre (演劇 / event cinema)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2021/01/17
Lyttelton Theatre (National Theatre), London, 7 November 2019.
by Simon Woods
Director: Simon Godwin
Set and Costume Designer: Hildegard Bechtler; Lighting Designer: Jackie Shemesh; Music: Michael Bruce; Sound Designer: Christopher Shutt; Movement Director: Shelley Maxwell.
Cast: Lindsay Duncan (Diana Hesketh), Alex Jennings (Robin Hesketh).
First Performance: 22 August 2019, Lyttelton Theatre (National Theatre).
上映: TOHOシネマズ川崎, 2021-01-16 18:15-19:55.

舞台は1988年、サッチャー政権下のイギリス。 保守党 (Tory) 議員の Robin Hesketh が、週末、Cotswolds の家に帰り、 左翼がかった妻 Diana との家のリビング & ダイニングの1室で展開する密室会話劇です。 それらしく作り込んだ舞台美術で、映像や照明などを使った演出も最低限に抑え、 非現実的で象徴的な動きを使った表現などもなく、オーソドックスにリアリズム的な演出と感じましたが、 その辛辣な政治的皮肉混じりの会話から、少々感傷的すらある最後まで、話の流れ、演技とも引き込まれるものがありました。

前半は、というより、最後の20分位まで、政治的な意見の異なる夫婦の辛辣な舌戦で、 時代がサッチャー政権下ということで、その政策に対する英国流に皮肉が効きまくった応酬を、笑いながら堪能できました。 模範的な政治的議論としての演劇を見るようでもあり、その皮肉なユーモアは夫婦漫才のようでもあり。 個人的に、1980年代半ば The Smiths とか Billy Bragg などの政治的を題材を歌にするイギリスのミュージシャンをよく聴いていたおかげで、 Hansard の背景というか前提となっている英国の政治状況にそれなりに馴染みがあったこともあり、 この前半の皮肉だらけのユーモアをとても楽しみました。 直接的にはサッチャーの政策に対するものですが、日本の失われた30年で進行した政治状況にもあてはまるような皮肉が多く、苦笑したりもしました。

その夫婦のやりとりも面白いのですが、口では辛辣に言い争いつつ、 実に自然に阿吽の呼吸で一緒にコーヒーを淹れ、ブラッディマリーを作りと、 長年連れ添った夫婦らしいさを感じさせる演技を交えていきます。 こういうセリフと演技の組み合わせも、 Diana とRobin の関係に、政治的な意見の違いに単純化できない深みを作り出すよう。

サッチャーの政策をめぐる政治的な舌戦から、話は次第に2人の過去の話にシフトしていき、 最後に、Diana がどうして教育の場で同性愛を扱うことを禁ずる地方自治法第28条に強硬に反対する理由 (そして、家事を蔑ろに酒に浸っている理由) が明らかになります。 この物語のエンディングは少々感傷的かなとは思いますが、 この政治家夫婦の会話を通して描かれる政治的な分断を、少々感傷的ではあっても分断させたまま終わらせたくなかったのだろうなあ、と。

戯曲作家、演出家、俳優いずれもそのバックグラウンド等を知らず、そもそも会話劇は演劇の中でも苦手なカテゴリー。 National Theatre Live であれば流石に大外れは無いだろう、と構えず気楽に観に行ったのですが、 足を運んで正解でした。