TFJ's Sidewalk Cafe > Dustbin Of History >
Review: Opéra national du Rhin / Matias Tripodi (choreo.), Astor Piazzolla (musique), Horacio Ferrer (livret): Maria de Buenos Aires @ Opéra de Strasbourg (オペラ/ダンス / streaming)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2021/04/18
Opéra de Strasbourg
2019/05, 101 min.
Musique: Astor Piazzolla; Livret: Horacio Ferrer.
Chorégraphie, décors, mise en scène: Matias Tripodi.
Direction musicale: Nicolás Agulló.
Costumes: Xavier Ronze; Lumières: Romain de Lagarde; Projections scéniques (photographies): Claudio Larrea; Assistante à la chorégraphie: Xinqi Huang.
Avec:
Ana Karina Rossi (Maria), Stefan Sbonnik (ténor), Alejandro Guyot (El Duende).
Ballet de l'Opéra national du Rhin: Maria-Sara Richter (Maria blanche), Dongting Xing (Maria noire), Renjie Ma (L'Esprit del Duende), Wendy Tadrous (Une actrice), Marin Delavaud, Ana Karina Enriquez Gonzalez, Hector Ferrer, Brett Kududa, Eureka Fukuoka, Jesse Lyon, Alice Parñao, Hénoc Waysenson.
Federico Sanz (violon solo), Carmela Delgado (bandoneon solo), La Grossa - Orchestre Tipica de la Maison Argentine: Ivo de Greef (piano), Florencia Jaurena (flute traversière-Piccolo), Ignacio Naon (guitare), Lucas Eubel (contrabasse), Jaime Flores Caceres, Bastien Lacoste, Sonia Morin (violons), Romain de Mesmey (alto), Olivier Koundouno (violoncelle), Javier Estrella (percussion et batterie), Louis Domallain (percussion clavier).
Crée: 2019.
Réalisation: Sébastien Glas; Production déléguée: Ozango; avec le soutien du Centre Nationall du Cinéma et de l'image animée (CNC).
ARTE Concert URL: https://www.arte.tv/fr/videos/089942-000-A/maria-de-buenos-aires/ (11/03/2021-31/05/2021)

Astor Piazzolla 作曲 Horacio Ferrer リブレットによる1968年初演作のタンゴ・オペラ (tango operita) Maria de Buenos Aires の新演出です。 振付・演出を手がけたアルゼンチンの振付家 Matias Tripodi のバックグラウンド、作風についての予備知識は無かったのですが、 音楽だけであれば Gidon Kremer / Kremerata Musica のCD (Teldec, 1998; Nonesuch 7559 79883 1, 2012, 2CD) で聴いたことがあったので、 上演を観る良い機会かと、観てみました。

歌手が3人しか登場しないこともあり、ダンスがメイン、生歌生伴奏でのダンス作品に近いものでした。 振付の Matias Tripodi はタンゴのバックグラウンドがあるようですが、 この作品ではタンゴのイデオムはほとんど使わず、バレエのイデオムも控えめながら、 ヨーロッパの歌劇場バレエ団らしく美しい所作で見せるコンテンポラリー・ダンスでした。 ダンサーが役を演じ踊るというより、 ダンスを通して視覚的に象徴的に場面や登場人物の内面を描いて見せるよう。 ライティングやモノクロームな映像のプロジェクションに、 大量の黒い紙や黒のモダンな曲木椅子などを最低限の道具で、衣装も色・装飾を抑えた、 ミニマリスティックというほどでは無いものの、シックな演出でした。

プロット的には、第1幕では郊外から Buenos Aires に出てきた Maria が娼婦となって若くして死に、 後半第2幕は影 (亡霊) となった Maria が精神分析を経て奇跡の受胎告知を受け聖母となるというもの。 特に後半の影になってからの物語など、リアリスティックというよりシュール、ラテンアメリカの魔術的リアリズムの文学も連想させられるものなので、 すっきりシックな演出は少々意外でした。 男側の主人公である小悪魔 (El Duende) こそ朗読役と内面を踊るダンサーの2人組で演じられましたが、 Maria は、歌手、内面の黒白2面を踊る2人のダンサー、さらに姐御役も兼ねるような女性 (une actrice)、 時にはコールの女性ダンサーたちも使い表現されていました。 娼婦/聖母という男性目線の古い女性観を避け、悲劇とその救済のような面を抑えて、 Maria の多面性を表現しようとしたようにも感じられました。

視覚的には、特に第1幕後半が良かったでしょうか。 第5場 (Fuga y Misterio) 末、Maria が郊外から Buenos Aires へ出てくる場面を女性ダンサーたちの歩みのシルエットで描き、 第6場、第7場での娼婦となっていく Maria は舞台に黒紙を撒き散らすことで象徴的に描いていきます。 ラスト第8場の Maria の死の場面も、ダンサー、歌手や女優が死ぬ様を演じるのではなく、 女優の衣装が剥ぎ取られるという形で象徴的に描かれます。 第1幕後半に比べ第2幕は比較的オーソドックスな演出になるように思いますが、 第12場 (Aria de los Analistas) で男女の歌手が opera のようにマリアと精神分析医を演じ歌いつつその脇で女性ダンサーが踊る場面や、 第2幕の音楽的なクライマックス第15場 (Milonga de la Anunciación) での 女性歌手の独唱に合わせての男女混成ダンサーの群舞など、 演出の妙というより歌とダンスをしっかり見せるような良さがありました。

現代的で期待した以上に好みの演出を楽しめたのですが、楽しめただけに、 オーソドックスに tango を踊るような演出ではどうなるのか観てみたくなりました。