Polski Balet Narodowy [Polish National Ballet, ポーランド国立バレエ団] による Sergei Prokofiev の Romeo and Juliet です。 Kenneth MacMillan はじめ様々な振付で知られますが、これはバレエ団芸術監督 Krzysztof Pastor による2014年の振付です。 ヨーロッパのオペラハウスのプロダクションを配信している OperaVision で今年2月の上演が配信されているのを観てみました。 舞台を現代に置き換え、20世紀モダンな衣装に舞台美術も最低限、背景の映像投影も場面を説明するというより暗示するような使い方で、 ナラティブ・バレエながらミニマリスティックな演出はかなり好みでした。
シノプシスに「1930s, 1950s, 1990sそれぞれのイタリアに置き換え」とありますが、メインは1930sのファシズムの時代でしょうか。 20世紀モダンといっても華美な 1920s Art Deco ではなくモノトーンで戦時色も感じられ衣装で、 黒シャツの Capulet 家はファシスト党員もしくは支持者、 対する Montague 家は反ファシズムの市民達で、その対立の物語となっていました。 背景に投影された映像にも、ファシズム建築で有名なローマの Palazzo della Civiltà Italiana [イタリア文明宮] が象徴的に使われます。
1950sが反映されていると思われるのは、バルコニーの場面の後の第2幕でしょうか。 背景に戦後の撮影と思われる色あせたカラーの映像が投影され、 衣装も形はほぼそのままにモノクロから赤からオレンジがかったの色が入ります。 映像でも暴力的な事件を思わせる光景も映し出されるのですが、 ファシズム対反ファシズムに代わる対立構図に思い当たるものが無く、 衣装も大きく変わらなかったので、第1幕での対立構図がそのまま継続しているよう。 そして、1990sが反映されていたのは、ラストの第4幕の Romeo と Juliet の葬儀の場面。 20世紀半ばのスッキリとモダンな衣装から、現代的な多様な服装になっています。 2人のしでそれぞれの陣営が和解することはなく、 Romeo と Juliet をそれぞれ反対側の袖へ抱えて去っていきます。 このエンディングは、新たな極右勢力の台頭で分断される現代の社会を象徴するよう。
ファシズムと反ファシズムの対立は Capulet と Montague の対立ほど対称的なものなのか、など、 若干腑に落ちないところはあったとは言え、現代的な置き換えの妙を興味深く観ることができました。 そして、チュチュとかの装飾の多いクラシカルな衣装があまり好みではないということもありますが、 ラインなどはエレガントながら20世紀半ば風のシンプルでモダンなデザインの衣装でのダンスを、 それも群舞多めに観ることができたのも、良かったでしょうか。