Ballet de l'Opera National de Paris の étoile を2018年に引退した コンテンポラリーな作品を得意としたダンサー Marie-Agnès Gillot と、 1980年代末から活動する Tom Waits と比較されることの多いスタイルで知られるシンガーソングライター Arthur H (父は Saravah レーベルからのリリースのあった Jacques Higelin) とが、コラボレーションしたショーです。 ARTE TVでジオブロック無しでストリーミングされたので、顔合わせの意外さもあって観てみました。
2017年に Arthur H の “La Boxeuse amoureuse” のミュージックビデオ [YouTube] へ Marie-Agnès Gillot が出演したことが縁のようで、ショーのタイトルも La Boxeuse amoureuse です。 意味は「恋のボクサー」、ボクシングするように恋する女、といったニュアンスでしょうか。 2017年のビデオでは俳優の Roschdy Zem と共演し、バレエやダンスのテクニックを使うというより、 ボクシングと恋を重ね合わせるような演出の中で恋する女性を演じていました。
この舞台では、Marie-Agnès Gillot と「踊る」のは3人のボクサー。 セネガル出身の Souleymane Cissokho はアマチュア時代2016年リオ五輪の男子ウェルター級の銅メダリストで、 プロになってからもWBAスパーウェルター級でタイトルを取っているボクサーですし、 他の2人もボクサーとしての経歴を持っています。 音楽もピアノのボーカルの Arthur H に加え、No Format! レーベルでお馴染み Nicolas Repac がギターやパーカッションを弾き、 Arthur H だけでなく Repac の曲、Edith Piaf の “Hymne à l'amour” のカバーもあります。 2人のミュージシャンの間、少し前にリングを表す正方形のスペースが作られ、 ライブ演奏に合わせて、リングとその周辺のスペースを使ってパフォーマンスが繰り広げられます。
バレエのウォーミングアップやトレーニングをボクシングのそれに重ねるように始まり、 Gillot がボクサーとフロアワーク的なダンスで絡んだり、ボクサー同士が (試合ほどの本気度ではないですが) 戦ったり、 そしてラストに表題曲 “La Boxeuse amoureuse” を Souleymane Cissokho と踊ります。 それは、恋愛のメタファーとしてのボクシングではなく、自らを鍛え闘う者 (それはボクサーだけでなくバレエダンサーもそう) への敬愛を、 そして、アンコールでは勝ち抜いた者への崇敬を表現しているように感じられました。