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Review: Charley Bowers (dir.) Egged On 『たまご割れすぎ問題』, He Done His Best 『全自動レストラン』, Now You Tell One 『ほらふき倶楽部』, There It Is 『怪人現る』 (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2021/11/21

アテネ・フランス文化センターで NPO法人プラネット映画保存ネットワークの企画による上映会 『NOBODY KNOWS チャーリー・バワーズ』を観てきました。

Charley Bowers はカートゥン Mutt and Jeff のアニメーションのアニメーターとして1910年代に活動を始め、 その後、モーションストップ・アニメーションと実写を組み合わせた “Bowers System” による スラップスティックなサイレント・コメディ映画を自身のプロダクションで制作したアメリカのコメディアンです。 トーキー後の1940年まで活動していたようですが、1946年に死去。 以来忘れられた存在でしたが、フランスに残っていたフィルムが1960年代に発見され、近年再評価が進んでいるそうです。

2019年にリリースされた The Extraordinary World of Charley Bowers (Fricker Alley, 2BD, 2019) には1917年から1940年にかけて制作されたアニメーション、実写合わせて17本の作品が収録されています。 この17本が現存が確実な作品ですが、今回の上映では4本が上映されました。

Egged On
『たまご割れすぎ問題』
1926 / Bowers Comedy Corporation (USA) / Black+White / silent / 23 min.
Directed by Charley Bowers, Harold Muller, Ted Sears.

自身のプロダクションによる “Bowers System” による第1作です。 たまごが割れやすいという問題を解決するため、「割れないたまご製造機」を発明する発明家が主人公のコメディです。 Bowers はフランスでは “Bricolo” の名で知られていたようですが、 「割れないたまご製造機」はまさにブリコラージュ (bricolage)、その場で手に入るものを寄せ集めて作った装置で、 その材料集めから笑いを取りに行きますし、仕上がった機械の無駄の多い形状、動作の珍妙さ (どうして殻が柔らかくなって割れなくなるのか仕組みも不明) も可笑しいものです。 装置完成後、デモ用のたまごを集めようとしてたまごを割りまくる場面、ラストの大爆発といい、 スラップスティックな展開もテンポが良いもの。 ストップモーション・アニメーションの場面では、なんといっても、 自動車のエンジンルームで運んだたまごから自動車の「雛」が孵える場面。 Jan Švankmajer を思わせるシュールなストップモーション・アニメーションを1920年代に作っていたというのも驚きです。 これが “Bowers System” 第1作とは思えない完成度で、今回観た4作の中でも最も好みの作品でした。

He Done His Best
『全自動レストラン』
1926 / Bowers Comedy Corporation (USA) / Black+White / silent / 23 min.
Directed by Charley Bowers, Harold Muller.

従妹との結婚の許しを得ようとその親の経営するレストランに行ったら、 募集中だった皿洗いと間違えられ、働くことに。 しかし、組合員証を持っていなかったため、他のコック、従業員がボイコットを始め、 一人でレストランを回すうちに、湯沸器 (らしきもの) を倒して大爆発。 店を一週間で直す約束をして、テーブルメイキングから調理、配膳まで全自動でやる機械を開発します。 全自動レストランの機械は、割れないたまご製造機と違いブリコラージュ感が無かったのが、少々ものたりかなったでしょうか。 ストップモーション・アニメーションは自動調理の場面で活躍していました。

Now You Tell One
『ほらふき倶楽部』
1926 / Bowers Comedy Corporation (USA) / Black+White / silent / 21 min.
Directed by Charley Bowers, Harold Muller.

ほらふき選手権へ招かれた発明家の話という「劇中劇」として、シュールなスラップスティックコメディが展開します。 ここでの珍妙な発明品は、あらゆる物を実らせることができる木です。 この木が様々なものを実らせる場面に、ストップモーション・アニメーションが活用されていました。 家がネズミで荒れてしまったヒロインを助けるために、ネズミ退治のための猫を木に次々と実らせる場面が、 特にシュールで面白く感じられました。

There It Is
『怪人現る』
1928 / Bowers Comedy Corporation (USA) / Black+White / silent / 22 min.
Directed by Charley Bowers, Harold Muller.

今回上映された作品の中で最も新しく、作風もちょっと違うものでした。 珍妙な発明品が登場せず、Bowers の役も発明家ではなく、問題解決のために招かれた探偵という役です。 Bowers 演じる探偵や住人たちが屋敷に現れる謎の「ひげの怪人」を退治しようと繰り広げるスラップスティック・コメティです。 Bowers の相棒がマッチ箱に入るほどの小人で、そこにストップモーション・アニメーションが活用されていました。

4本を観た限りでは、 サイレント映画のコメディアンの中では、スラップスティックな所など Buster Keaton と多くの共通点を感じるのですが、 Buster Keaton の道具立ては大掛かりでアクロバティックな高い身体能力を駆使するものなのに対し、 Charley Bowers はもっと細かい機械仕掛けの発明品。 本人も職業として「発明家」を名乗っていたそうですが、作中でも発明家の役を演じることが多く、その珍妙な発明品が着想の核になっているよう。 そこに、ストップモーション・アニメーションを交えることでシュールさが増していました。