イギリス19世紀半ば (ヴィクトリア朝時代) の Charlotte Brontë による同名の小説を舞台作品化したものです。 2014年に Bristol Old Vic で初演された時は約4時間半を2夜に分けて上演されましたが、 2015年に Lyttelton Theatre で上演された際に途中休憩ありの約3時間半にまとめられました。 演出家などのバックグラウンドには疎かったものの、 トレイラー [YouTube] に引かれて、 2015年に上演された際に National Theatre Live 化されたものの上映を観てきました。
原作が長編なのでさすがに端折られてはいますが、 Jane Eyre の生まれから Rochester と結ばれるまでの半生を描いていて、 時代設定や主要な登場人物、主要な台詞などは原作に忠実です。 が、演出はリアリズム的ではなく、衣裳こそヴィクトリア朝時代風ですが、 舞台装置も様々な場面に見立てられるようシンプルながら形状が工夫された白木の足場。 この足場を、演技や小道具を使って、子供時代の Reed 家、Lowood 学院、Rochester の Thornfield 邸、St. John の教会、 時には Rochester の御する馬車にすら見立てていきます。 様々に見立てる妙はもちろん、俳優の動線に高さ方向を加えた多様な動きも面白く感じました。
さすがにメインの Jane Eyre と Edward Rochester の役は固定していましたが、それ以外は1人複数役で、時には登場人物ではなく道具を動かす黒子的な役もこなします。 Jane と Edward などは心理描写でリアリズム的な演技を要所に配するものの、 むしろマイム的な演技、ポーズ、立ち位置の配置、ライティングの色などを使って象徴的に状況を描いて行きます。 もちろん、台詞使いも、Jane が混乱した時など、Jane の周りで多声的に状況や内面を描写する台詞を重ねたり。 台詞はあるものの、道具を様々に見立てての演技や、象徴的な演出もあって、マイムシアターやダンスシアターに近く感じられました。
さらに、音楽も生演奏です。祝祭的に舞台を盛り上げるような音楽ではなく、 象徴的な状況や心理の描写のパーツとして、歌やピアノ、ギターの演奏が演技やライティングと共にあるようでした。 また、Melanie Marshall が最初の場面から歌手として登場しているのですが、 歌詞の内容がどうも Jane の心理描写に合っていないようで怪訝に思っていたのですが、 最後に Bertha 役だったということが明らかになったのも、少々驚きでした。
道具の見立てなどを活用して象徴的な演出は、斬新というほどでは無いものの、 Jane Eyre の現代にも通じるフェミニズム的な面も押さえつつ、 説明的ではなく形式的に想像力を刺激されるところがあり、とても好みの演出でした。