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Review: Kaori Ito et Yoshi Oïda: Le Tambour de soie [伊藤 郁女, 笈田 ヨシ 『綾の鼓』] @ KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ (演劇)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2021/12/27
KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
2021/12/26, 15:00-16:10.
Mise en scène et chorégraphie [演出・振付]: Kaori Ito [伊藤 郁女] & Yoshi Oïda [笈田 ヨシ].
Texte: Jean-Claude Carrière, librement inspiré d’une pièce traditionnelle de théâtre nô et de son adaptation moderne par Yukio Mishima [三島 由紀夫].
Musique: Makoto Yabuki [矢吹 誠]; Lumière: Arno Veyrat; Costumes: Aurore Thibout; Couleurs textiles: Aurore Thibout et Ysabel de Maisonneuve; Collaboration à la chorégraphie: Gabriel Wong; Collaboration à la mise en scène: Samuel Vittoz.
Avec: Kaori Ito [伊藤 郁女], Yoshi Oïda [笈田 ヨシ], 吉見 亮 (SPAC).
Production déléguée: Maison de la Culture d’Amiens – Pôle européen de création et de production; Production: Companie Himé; Coproduction: Festival d'Avignon, Théâtre de la Ville Paris.
Création: 2020.
舞台監督: 小金井 伸一; 照明: 神谷 怜奈; 音響: 高塩 顕; 字幕翻訳: 横山 義志 (SPAC); 技術監督: 村松 厚志 (SPAC).
企画制作・主催: KAAT神奈川芸術劇場.

2000年代以来フランスを拠点に活動するダンサー Kaori Ito [伊藤 郁女] と、 1960年代末以来 Peter Brook 演出作品に多く出演してきた俳優 Yoshi Oïda [笈田 ヨシ] の、2人舞台です。 能『綾鼓』を現代に翻案した 三島 由紀夫 の戯曲『綾の鼓』 (『近代能楽集』 (1956) 所収) に着想した作品です。

劇場の舞台の掃除をしている老人が舞台でリハーサルしているダンサーに叶わぬ恋をする、という設定は、 三島の翻案より元の能に近いもの。 しかし、老人の恋は叶わないものの、能や三島の翻案のようには自死しません。 老人の亡霊の姿はダンサーの見た幻影で、その後、老人とダンサーは再会します。 そこで、ダンサーは老人に「もう一回打っていれば聞こえたのに」 (この台詞は三島の翻案から取られている) と言いいます。 元の能は分不相応の叶わぬ恋という執着というか人の業、恋の不条理さを描くようですし、 三島の翻案では老人の滑稽さや女性の傲慢さも感じさせます。 しかし、この作品では、老人の側にも執着というほどのものを感じませんでしたし、 ダンサーの老人への態度も傲慢さというよりむしろ困惑や躊躇い。 「もう一回打っていれば聞こえたのに」という台詞も「キッカケが無かった」という意味のよう。 そんな展開に、躊躇やすれ違いで恋が叶わないメロドラマに近いものを感じました。

といっても、そんなメロドラマのような展開をベタに演出しているわけではなく、 パーカッションの生演奏も能をアップデートしたようで、 舞台装置も最低限ながら、舞台奥に高いところから下げられた紗の幕など視覚的に効果的。 台詞も控え目にダンスのソロなども交えてスタイリッシュな演出でした。 はっきり符合する点が思い当たったというほどではないのですが、 メロドラマ的な要素も持つ 小津 安二郎 の映画 (『宗方姉妹』とか) のことをふと思い出したりもしました。