戦間期日本で興った民藝運動の、その戦後までの展開を辿る展覧会です。 民藝運動が取り上げた工芸品を展示するというよりも、その関連資料からその活動を浮かび上がらせる展覧会でした。 展示は、1Fの企画展ギャラリーだけではなく、 通常は企画展とは別のコレクションに基づく企画展示を行っている2Fギャラリー4も会場にした大規模なもの。 日本民藝館には何回か行ったことがあり、民藝運動についての予備知識はそれなりにあったつもりでしたが、 これだけの資料をまとめてとなるとかなり見応えありました。
民藝運動の先駆的な動きとして、柳 宗理も参画した同人『白樺』の創刊 (1910年) から展示が始まるのですが、 これを見て、偶然ながら読んだばかりだった 山室 信一 『モダン語の世界へ:流行語で探る近現代』 (岩波新書 新赤版1875, 2021) で 「モダン語の時代」の始まりを1910年に置いていた事を思い出しました。 この展覧会の展示も、ローカル色濃く匿名性の高い伝統的な工芸品を愛でる視線ではなく、 それをメタにみて民藝運動を近代化と表裏一体のものとして描くような展示で、 モダン語との同時代性を強く意識しながら興味深く観ることができました。
全体としては、運動を立ち上げる時期を扱う前半よりも、多様化し拡散していく様を描いた後半が興味深かったでしょうか。 第4章「民藝は「編集」する 1930年代〜1940年代」では、 雑誌記事などで使われた写真のトリミングから何を見せようとしていたのか浮かび上がらせていました。 民藝運動の人たちの服装にも着目していて、ツイードのスーツ姿での調査旅行と、 作業着としての作務衣が同居しているのも、彼らの志向をよく現ししているよう。 当時の満州事変〜日中戦争の状況を考えると意外ではないのですが、 第5章「ローカル/ナショナル/インターナショナル 1930年代〜1940年代」で沖縄、アイヌ、朝鮮だけでなく 台湾や満洲・中国北部までスコープに入れていたということに気付かされました。 また、戦後の展開を扱った第6章「戦後をデザインする–衣食住から景観保存まで 1950年代〜1970年代」では 外食産業との関わりにも焦点が当てられていたのですが、ビフテキやしゃぶしゃぶの普及にも関わりがあったというのは、意外でした。