2020年夏上演予定で準備していたもののCOVID-19パンデミックでキャンセルとなった Romeo and Juliet を、 休館中で無観客の Lyttelton Theatre の舞台などを使って17日以上かけて上演・撮影した、National Theatre 初制作の映画です。 このような作品はパンデミック中に観てこそだと思いますし、 観客を入れての上演をライブで収録する National Theatre Live と異なるパンデミックで休館中ならではの制作方法でどのような映画に仕上がったのかという興味で、観てきました。
ミクロでの演技こそリアリズムに寄ったものもありましたが、 セット、小道具や衣装の作り込みに劇映画的なリアリズムを志向せずに、 劇場空間や限られた道具で様々な場面を見立て、 時には象徴性の高いセットや演技で場面や登場人物の内面を描くなど、 舞台作品を観る時に面白さを感じる点を生かした映画になっていました。 特に、蝋燭を沢山並べた中での結婚式の場面など、映画ではなく演劇的な表現の良さが生きていました。 その一方で、俳優をクロースアップで捉えた映像や、近いマイクでテクスチャまで拾ったセリフや物音は、 観客を入れての舞台中継での遠い位置のカメラやマイクによる収録には無い生々しさで、 そんな映像や音響に引き込まれました。
ライブでの収録ではカメラ切替程度しかできないわけですが、 カットのつなぎで舞台ではできない場面転換をしたり、 過去や将来の場面の断片を挿入するといった劇映画的なフラッシュバック/フォワードでも使われていました。 しかし、それだけでなく、舞台装置を作り込み照明演出した中で衣装を着ての演技と、 フラットな照明に剥き出しの舞台での稽古の服装での演技を捉えた演技で、同一場面を撮ってカットバックで繋いだところなど、 リアリズム的な表現に対する異化作用も意識しつつ、それでも変わらない演技や演出の本質を際立ささせて見せるよう。 そこに劇映画にも演劇にも無い面白さを感じました。
Romeo and Juliet の解釈という意味では、 オリジナルの台本に忠実というわけではなく、舞台を現代に置き換え、100分という上映時間に収まるよう大幅に省略されたもの。 といっても、自分ですら知っているような有名な場面や台詞はきっちり押さえ、物語の展開に無理は感じられませんでした。 映画館での上映で観ましたが、HD TV放送 (イギリスでは Sky Arts、アメリカでは PBS) を家で観ることを想定したと思われる、テンポ良い作りでした。 オリジナルからの改変箇所で印象に残ったのは、Juliet の両親の男女の役割が入れ替えられていて、 Lady Capulet が家長的な役割を担っていたこと。 その結果、Juliet については、家父長制的な抑圧の話ではなく、結婚をめぐる母娘の対立の話になったようでした。 Romeo の側も親の存在が薄く、Montague 家と Capulet 家の対立の構図は残しつつも、家の縛りという面は薄められていたよう。 そんな点も現代的に感じられました。
今までに観たことの無いような表現方法を楽しみましたし、 最後は涙するくらい物語にも没入でき、とても良かったとは思います。 しかし、COVID-19パンデミック下での表現の実験の妙、という面もあり、 このスタイルの映像化で他の作品も観てみたいかというと、 たまにやるのは面白いかもしれませんが、定番のスタイルにして欲しいというほどではありません。 むしろ、この Romeo and Juliet の有観客での上演を、 通常の劇場中継的なスタイルの National Theatre Live で観てみたいものです。