有名なギリシャ神話の Orpheus and Eurydice の物語を妻 Eurydice の視点から描いた2003年の戯曲を翻案した新作オペラです。 作曲の Aucoin、演出の Zimmerman の作風に関する予備知識もなく、戯曲は未読でしたが、 Eurydice 視点でどんな話になっているのだろうという興味で、観ました。
舞台は現代、というか、19世紀末〜20世紀前半頃と思われる時期に置き換えられ、Orpheus は音楽家という設定です。 冥界で亡き父と再会した Eurydice が、父と夫の間で揺れ動き、結局全てを失ってしまうという悲劇として描かれていました。 また、Orpheus はその音楽的な内面の演じる1を加え2人1役でした。 この3役がシリアスに演じられる一方、悪役でもある冥王 Hades と冥界の3つ石が、むしろコミカルに演じられていました。 対比させるだけでなくコミックリリーフ的な意図もあるのだろうと、その意図はわからないではないのですが、 自分の好みもあるとは思いますが、その漫画的な造形も含めてキッチュに感じられてしまいました。 そんなこともあってか、いまいちハマれませんでした。
音楽は、Minimal Music 的な反復もちりばめつつも、全体としては歌でドラマチックな展開を聞かせました。 舞台装置はミニマリスティックというほどではないもの控えめに、照明や黙役のダンサーを多く使った演出でした。
LA Operaで世界初演された直後にCOVID-19禍で劇場が閉まり、再開してのMet初演という作品ということもあるのでしょうが、 幕間のインタビューで、この作品における死者との再会と喪失という題材をCOVID-19禍における喪失感が、度々重ねられていました。 確かに、パンデミック以降の累積死者数は、日本も2万人を超える深刻なものですが、アメリカは100万人近くに達しています。 インタビューを聴いていて、COVID-19による死亡がアメリカではそれほど身近なものだったのか、と感じさせられました。