1990年代にイギリスの現代美術の文脈で活動した若手作家 YBAs (Young British Artists) の中でも
最も名が知られた作家の1人、Demian Hirst の個展です。
1990年代からの活動を辿るような回顧展的な要素は全く無く、
2018年以降に製作された約3m×2m大 (1点だけ約5m×7m大) のキャンバスに描かれた油彩のシリーズ
Cherry Blossoms 『桜』のみの、
2021年に Foundation Cartier で開催された展覧会の世界巡回展です。
1990年代後半 (特に1998年の「日本における英国祭」の時) にYBAsがらみの展覧会を観たり、
美術雑誌や文化系雑誌などの特集記事を読む機会はそれなりにあり、
Damien Hirst の作品もそんな文脈でのコンセプチャルな作品 (薬品棚や動物のホルマリン漬けの作品など) の印象がとても強い作家です。
2000年代以降、あまりチェックしていなかったのですがはコンセプチャルながらも絵画作品に回帰し始めていたよう。
今回の作品は、空を背景に見上げた視線でみたような桜を、枝の太線と花や影、木漏れ日のドットのコンポジションとして半ば抽象的に描いたもの。
ドリップではなく立て掛けたキャンパスに投げつけるように描いているのですが、
油絵具が盛り上がったドットからなる絵は抽象表現主義のアクションペインティングを連想させますし、
実際には無い色のドットを交えて深みも表現したドットは遠目で見ると後期印象派をも参照しているよう。
ピンクと水色を基調とした色も明るくとても親しみやすく感じられました。
しかし、結局のところ、作品そのものよりも、
会場奥の休憩コーナーに隣接して流されていた、
このような作風に至る経緯を作家に語らせたインタビュー映像が最も興味深かったかもしれません。