神保町シアターの特集企画 『子役の天才!』で、 この戦前の映画を観てきました。
裁縫で生計を立てる母、祖母との3人暮らしの富子 と、裕福な家の子 信子 の、親しい小学校の同級生の少女2人を主人公とした子供映画です。 信子の成績が下がったことによる両親の喧嘩の会話を通して、 信子の父・啓吉と富子の母・蔦子がかつて親しい仲で、結婚にあたって蔦子が身を引いたということを信子は覚ります。 それをきっかけに、2人の関係、そして親たちの揺らぎを描いた映画です。 さざなみのように揺らぐものの、人間関係が大きく組み変わることはなく、 むしろ、最後には啓吉が招集されて出征するという大状況でうやむやになる感があるのですが、 そんな揺らぎを淡々と丁寧に描いていました。 啓吉が招集されたり、その妻が「大日本愛国婦人会」で活動していたり、というのはありますが、 東宝に指定は戦時色はさほど濃く感じられませんでした。
信子を演じた 悦ちゃん (江島 瑠美) は、獅子 文六 の小説『悦ちゃん』の映画化 (日活多摩川, 1937) の際に公募で選ばれてデビューした人気子役。 その演技を見るのも楽しみでした。 しかし、おかっぱ頭の 富子 を演じた子役 (加藤 照子) の方が現代的な美少女で、 一人親の蔦子との難しい関係を繊細に演じていました。 親の三角関係については 浅田 夫人が分かりやすく悪役で少々図式的。 道徳的な教訓臭さを感じてしまいました。 しかし子供が主役の映画と思えば、そんなところも所詮背景でしょうか。 むしろ、娘に伏せていた過去を知られたことによる蔦子の心の揺らぎや、 蔦子と啓吉の再会の場面など、予想以上にメロドラマチックに感じられました。