第二次世界大戦後に前衛書 (前衛的な書) の文脈で活動を始め、そして、 1950年代以降、同時代の抽象表現主義との類似性もあって国際的にも注目され、1956年から2年間、渡米。 2021年に107歳で亡くなった 篠田 桃紅 の回顧展です。 美術館のコレクション展かホール等の壁画・レリーフなど、どこかで観たことがあるはずですが、 これだけまとめて観たのは初めてでした。 伝統的な書に近い作品もありますが、筆跡の密度低く大胆に太い色面を多く描くあたりは、 Action painting というより Color field painting との共通点を感じました。 墨や銀泥でこれだけ微妙で多様な色を出せるのかと思う一方で、 同時代の欧米の絵画とは異なる彩度の低い落ち着いた雰囲気も良かったです。 また、そんな色調の中に加えられる朱に、生々しさ、色気を感じられる時もありました。
そんな作品の雰囲気を楽みましたが、興味深く見られたのは、 ビデオ上映されていた短編のドキュメンタリー映画 Pierre Alechinsky: Calligraphie japonaise (19657)。 1955年に東京、鎌倉、京都で撮影された書家のドキュメンタリーで、 最後に取り上げられる 篠田 桃紅 をはじめ、伝統から踏み出した前衛的な作風のものが中心。 穂首の長い筆を使い立って書く 篠田 桃紅 の様子など、 あの流れるような文字はこのように書かれていたのか、と。 しかし、看板の活字体ではなく、暖簾やのぼり、提灯などに書かれた書の文字が街中に溢れる様子を捉えた映像に、 伝統的な書が社会的に溢れていた当時の書が置かれた社会的文脈を気付かされました。
また、戦後のモダニズム建築を飾った壁画・レリーフのスライドショー『篠田桃紅と近代建築』を観ていて、 それまでの伝統的な日本建築に飾られた書画に代わって、そして、木造の町家の街並みに溢れた書に対するものとして、 篠田 桃紅 の前衛書は、コンクリート打ちっ放しのような戦後モダニズム建築を飾るものとして時代に求められたのだろうとも気付かされました。 抽象表現主義の潮流に乗った表現というだけではなく、そんな、日本における受容の文脈について気付きの多い展覧会でした。