FESTIVAL/TOKYOで『おやじカフェ』とかやっていた頃を最後に、
最近の 伊藤 キム の活動はほとんどノーチェックになってしまっていました。
というわけで、GEROを主宰するようになってからの作風は知らないのですが、
YMAPフリンジ
で公演があると気付いて、足を運んでみました。
約3時間の公演時間中に入退場自由な「身体展示プロジェクト」ということで、最初の30分程度と、最後の20分程度を観ました。
観客との即興的なインタラクションが中心で時間展開をあまり感じさせないパフォーマンスを予想しましたが、
観客とのインタラクションはあまり無いものの予想より展開のある振付演出が感じられたパフォーマンスでした。
床に緩く皺寄せて広げられたおよそ20 m × 10 m はあろう白布の下でダンサーは踊り、
観客は靴を脱いで白布の上に乗り、白布越しにダンスを鑑賞します。
布下には他に180 cm × 60 cm × 70 cm 程度の可動の台が一つと、
100 cm × 100 cm × 20 cm 程度 の角の丸い物体 (こちらは使われる時を見られませんでした) がありました。
観客はダンサーの間を含め自由に移動可能、イマーシブなダンス作品です。
布上にいるサポートメンバーのガイダンスに従い
観客が中央で輪になって1 mくらいの高さに布を持ち上げるところから始まり、
その布を落とすと布下にダンサーが現れるというオープニングでした。
それなりの厚さの布が使われており、床でふわふわと布が動くことはない一方、
一度持ち上がった布は下に空気を孕んでとてもゆっくり沈んでいきます。
布に押し付けた時などに微かに顔や手足が透けて見えることがありますが、
明るめの照明の時はほとんど透けず、ダンサーの性別も判然としません。
少なくとも自分が観ていた間は、音楽も使われたましたが、
通して流れていたのは時報 (しかし上演しているその時刻を告げるのものではない)。
音楽が流れた時は動きもそれに合わせて激しくなりますが、時報が刻む時間との同期を感じる動きはほとんどありませんでした。
床に丸まったり横たわったり這い回る動きがメインですが、
時折、座ったり立ち上がったりして、白い高まりを作り出します。
座ったり立ったりした際に単に高まりを作るだけでなく、
布を手繰りつつ胸の前で腕を畳み布を密着させることで肩から上の形を浮き上がらせます。
ほとんどは一様な白色光の下でしたが、時々薄暗くして青や赤のスポットライトを使ったり、
真っ暗にした中で布下から白く光りダンサーの姿を浮かび上がらせるような演出もありました。
ラスト近くに音楽 西城 秀樹 『YMCA』 を使った派手目の場面もありましたが、
特にフィナーレ的な演出はなく、布が繋がった壁の穴からダンサーが姿を見せないまま這い出していき、カーテンコールもありませんでした。
白布越しに抽象化された人の形状、位置やその動きを見る作品ですが、
ダンス作品では白布越しではなくてもダンサーの立ち位置や動きで空間の変容を観ているようなところがあり、
それがはっきり可視化されたような面白さがありました。
また、布下で横たわっているダンサーの盛り上がりを間近で観て、こうして見ると意外と小さいものだとも。
これも、通常のダンス公演でははっきり見える動きやオーラで実際よりも姿が大きく感じているということなのでしょう。
期待以上に興味深く観ることができた公演でした。
当日配布のリーフレットによると 伊藤 キム のソロパートでの 吉田 薫子 のバイオリン生演奏があったようなのですが、
3時間観続ける公演ではなかろうと途中で別の公演の予定を入れており、これを見逃したのが少々残念でした。