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Review: Police Magnétique 『磁石警察』 (映画); Buster Keaton and Eddie Cline: The Playhouse 『キートンの即席百人芸』 (映画); Ernst Lubitsch (Regie): Die Puppe mit Ossi Oswalda 『花嫁人形』 (映画); Mack Sennett presents Mabel Normand in The Extra Girl 『臨時雇の娘』 (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2023/05/04

横浜シネマ・ジャック&ベティで恒例の ピアノ即興生伴奏付きのサイレント映画上映会『柳下美恵のピアノ&シネマ 2023』で、 サイレント期のコメティ映画を楽しんできました。

Police Magnétique
『磁石警察』
1902 (1908?) / Pathé Frères (FR) / B+W (tinted) / silent / 3 min.

20世紀初頭、サーカス一座 (ビュイック座?) の舞台の様子を、アップなしで引きの固定カメラで捉えたものです。 白昼堂々とお屋敷荒らしに入った窃盗団と、その現場を押さえに入った警官3人との追い駆けあいを、 ドタバタのアクロバット技で演じています。警官の方がちょっと間抜けな所もお約束でしょうか。 生の舞台ではあったであろう動きの間合いが省略されたか、若干早回し的にも感じられて、そこも面白く感じました。

The Playhouse
『キートンの即席百人芸』
1921 / First National (USA) / B+W / silent / 3 min.
Written and directed by Buster Keaton and Eddie Cline.
Buster Keaton (audience, orchestra, minstrels, etc), Eddie Cline (Orangutan trainer), Virginia Fox (twin), et al.

Keaton's Opera House (と言っても、バラエティを上演するような劇場) での Buster Keaton presents Buster Keaton's Minstrels というバラエティ・ショーを映画化したもの。 といっても、それを劇場中継的に映画化しているわけではなく、 画面合成を駆使して Keaton 自身がほとんど全ての役、観客などを演じ、 さらに、舞台裏でのドタバタまでも含めて、コメディに仕立てています。 ドタバタのアクションよりも、同時に何人もの (最高で9人) もの Keaton が一度に画面に現れるという 多重撮りや画面合成を駆使した特殊効果の使い方に Keaton らしさを感じる映画でした。

Die Puppe
『花嫁人形』
1919 / Projektions-AG „Union“ (DE) / B+W (tinted) / silent / 64 min.
Regie: Ernst Lubitsch.
Max Kronert (Baron de Chanterelle), Hermann Thimig (Lancelot, sein Neffe), Victor Janson (Hilarius, Puppenfabrikant), Ossi Oswalda (Ossi, seine Tochter), et al.

ハリウッドに渡る前、サイレント期ドイツの Ernst Lubitsch 監督作です。 Edmond Audran のオペレッタ La poupée (1896) のドイツ語翻訳版に基くものとのこと。 女嫌いで結婚したくない伯爵の甥 Lancelot が人形と結婚しようとするが、 その人形は人形作り職人 Hilarius の弟子が壊してしまったのを誤魔化すために娘 Ossi が演じていたもので、 最後には Ossi と Lancelot が結ばれる、という物語は、 これは、E. T. A. Hoffman: Der Sandmann (1817) に基くバレエ Coppélia (1870) のパロディです。 当時の Lubitsch のコメディに多く出演しているという コメディエンヌ Ossi Oswalda の顔芸やドタバタの立ち回りが楽しい作品でした。 劇場中継的に映画化したわけではないですが、 舞台装置の作りや演技・演出などにも当時のオペレッタの舞台の様子が伺われる所や、 バレエやオペラのネタがオペレッタへ、そして映画になるという大衆化というかポピュラー文化化の歩みを見るようで、興味深く観ることができました。

The Extra Girl
『臨時雇の娘』
1923 / Triangle Keystone (USA) / B+W (tinted) / silent / 75 min.
Mack Sennett presents; Directed by F. Richard Jones.
Mabel Normand (Sue Graham), Ralph Graves (Dave Giddings), George Nichols (Zachariah "Pa" Graham), etc

映画プロデューサー Mack Sennet の Keystone による、Mabel Normand をスターリングしたサイレント・コメディ映画です。 田舎の小さな街に住む映画女優志望の娘 Sue が、親の決めた結婚から逃れるべく、Hollywood へ行き、 衣装係として映画スタジオに入り、スクリーン・テストの機会を得て、コメディ俳優としての才能を見出されるが、 着ぐるみ着た犬と間違えて撮影用のライオンを間違えて檻から出したりと、 呼び寄せた親の全財産を投資詐欺師に奪われたりと、騒動に巻き込まれる、という展開です。 スキャンダルで俳優生命の危機にあった Normand を救うべく作られた本格映画という制作エピソードもあるようですが、 確かに恋人役とのロマンチックな場面や親との葛藤の描写など撮影演出の洗練も感じますが、 大筋は、やはり、女優志望のちょっよ間の抜けた娘の引き起こす騒動からなるコメディです。 特に後半、逃げ出したライオンが引き起こすスタジオの騒動や、 投資詐欺師から金を取り戻すべく彼の部屋で揉み合う場面など、 ドタバタのアクションが増えてからが、本領発揮でしょうか。

今回観た中では、Keaton ももちろん良かったのですが、 むしろ、Ossi Oswalda や Mabel Normand の顔芸やドタバタアクションをこなすサイレント・コメディエンヌぶりを楽しみました。