イギリス Complicité の Simon McBurney が演出を手がけたオペラが Metropolitan Opera Live in HD でかかりました。 演出したのは、Mozart によるファンタジー色濃い歌芝居 (Singspiel)、Die Zauberflöte [The Magic Flute]『魔笛』です。 原作は時代不詳の古代エジプトとされていますが、やはり詳細な時代や場所は不詳ながら現代に置き換えています。 Tamino は chav を思わせるジャージ姿で登場しますし、Papageno は浮浪者風です。 Königin der Nacht も特に後半になると貧しい車椅子の老女とでもいう雰囲気。 その一方で、Sarastro 側の人々はグレースーツをビシッと決めた人々。 都市下層と富裕層の対比を思わせる衣装の対比でしたが、 第一部と第二部で善悪が反転する Die Zauberflöte の構造もあってか、その対比が上手く生かされていないように感じました。 元々、善悪が反転する捻りがあるものの王子がお姫様を救いにいく冒険や試練からなる英雄譚という物語だけに、 ポストアポカリプスな近未来物とかならまだしも、現代に翻案するのは無理があるように思われました。
映像のプロジェクションや効果音を使いますが、事前に準備したものをコンピュータ制御するのではなく、 映像も黒板にライブで手書きするなどして撮影投影し、効果音も実際にライブで物を鳴らします。 映像や効果音を担当するアーティストのブースも客席から見える様に舞台脇に置かれるだけでなく、 オーケストラピットも舞台に近い高さまで上げられ、 Tamino の魔法の笛に相当するフルートの奏者や Papageno の魔法の鈴に相当する鍵盤式グロッケンスピールの奏者は、演技にも参加します。 また、第二幕の Pamina と Tamino へ与えられる試練の場面でワイヤーアクションを使うなど、フィジカルな演技もオペラにしては激しめです。 そういった演出は大変に好みで楽しんで観たのですが、それだけに、素直に道化芝居風にした方が楽しかったのでは、と思ってしまいました。