1950年代から活動したユダヤ系スコットランド人の戯曲作家 C.P. Taylor (Cecil Philip Taylor) が亡くなる直前の1981年に書いた戯曲の舞台化です。 戯曲、演出家、出演している俳優にも疎かったのですが、National Theatre Live での上映ということで観て観ました。 Royal Shakespeare Company の委嘱で書かれた1981年に書かれた戯曲の上演で、 ユダヤ人の親友もいたリベラルな文学の大学教授 Halder が、認知症の母を題材に安楽死の主題にして書いた小説を評価されたことを契機にナチスに入党し、最後には絶滅収容所での職に至る道のりを描いた戯曲です。 正常性バイアスや承認欲求などに基づく個々は悪意の無いささやかな判断の積み重ねが、いつしか、絶滅収容所での仕事という取り返しのつかない所に達してしまう、という薄寒い怖さのある作品でした。
コンクリートの打ちっぱなしの地下室を思わせる密室的な舞台で、ほぼ3人で演じられる会話劇ですが、 主人公 Holder 以外の2人は複数役で、女性の俳優が妻 Helen と母をメインに、男性の俳優がユダヤ人の親友 Maurice をメインにしつつ、さまざまな役を担当します。 効果音や音楽の助けも使いつつ、声色と演技で役と場面を細かくシームレスに切り替えていきます。 演技も自然というほどでもなく、時には観客 (カメラ) 目線で語ったりもします。 異化というほどではないですか、そんな切替の妙を感じる演出でした。 最後の場面で、地下室のような壁が取り払われて、それまで3人で演じ分けられていた登場人物と違って、 坊主頭に囚人服の楽団が登場するというのも、取り返しのつかないリアルな結末になってしまったというインパクトを感じさせました。 正直にいえばもう少し抽象的で演技も様式的な演出の方が好みかなとは思いましたが、そんな演出を興味深く観ることができました。