Sterling Ruby は2000年代以降、アメリカを拠点に現代アートの文脈で活動する作家です。 作品を観るのは初めてで、作風には疎いのですが、 ギャラリーのウェブサイトに載る作品の写真を観ると、ホワイトキューブ的な空間に展示された作品など、色にむらなどがあれど彩度高めのシンプルな形状のミニマリスティックな立体作品やドローイングが多いように見えます。 その一方で、陶の作品も多く制作していて、そちらは、むしろメタリックな光沢などを使いつつ有機的な形状が印象を残します。 しかし、今回の個展は、展示会場の特異さもあってか、むしろナラティブなインスタレーションでした。
2023年にオープンしたばかりのギャラリーは、烏丸駅近く矢田町にある築約150年の町屋を リノベーションではなくほぼ築当時の状態に復元したというスペースです。 そんな空間に、小泉 八雲 (ラフカディオ・ハーン [Lafcadio Hearn]) の『怪談』などの妖怪話に着想したインスタレーションがされています。 町屋とはいえ生活感の無いきれいにされた空間ですが、そこにドローイング、写真、陶の作品に加え、 何かがいた、もしくは、あったと思わせる煤けてくたびれたオブジェが配されています。 妖怪猫の目のような分かりやすいものもありましたが、多くは間接的な痕跡のよう。 不気味な妖怪屋敷へ迷い込むというより、妖怪退治が済んでその痕跡がわずか残る屋敷の中を巡るようでした。
日本が近代化される以前の近世の雰囲気に満ちた町屋という空間が圧倒的に良かったということもありますが、 その空間の雰囲気を十分に楽しむことができた展覧会でした。