国立映画アーカイブ恒例のサイレント映画上映企画 『サイレントシネマ・デイズ2024』で、 サイレント映画の生伴奏付き上映を観てきました。
Georg Kaiser の1912年の戯曲に基づく映画です。 主人公の銀行の出納係が、窓口に来た女に目が眩んで彼女のために大金着服するも相手にされず、 家族との質素ながら堅実な生活を捨て、大金で豪遊するも虚しさを覚えて救世軍へ行き、最後は警察に踏み込まれて自殺するという、破滅の1日を描きます。 Das Cabinet des Dr. Caligari (1920) の1ヶ月後に公開された表現主義 Expressionismus の時代のドイツ映画ということで、 表現主義的な舞台美術、衣装や演技による当時の舞台の収録映像を観るかのような面白さ、興味深さがありました。 出納係の破滅の原因は退屈な日常からの逃避ですが、階級差、貧富差の描写もえげつなく、社会風刺が効いていました。 最後の場面が救世軍というのは Die Büchse der Pandora (1929) と共通しますし、 最後の場面で十字架の様な模様の壁にもたれかり死ぬ主人公の頭上に掲げられた “Ecce Homo” 「この人を見よ」は、 本来の受難劇の場面という意味と George Grosz の風刺画集 Ecce Homo (1923) での “Ecce Homo” の間を繋ぐようでした。
1920年代にサンクトペテルブルグの劇団/映画制作集団 Фабрика эксцентрического актёра (ФЭКС) を率いた Григорий Козинцов и Леонид Трауберг [Grigory Kozintsev & Leonid Trauberg] による映画です。 1871年のパリ・コミューンを舞台に、コミューンに参加することになった百貨店「新バビロン」の売り子 Louise [Луиза] と、 フランス臨時政府軍の兵士として弾圧する側になった Jean [Жан] の2人を軸として、彼らの半ばすれ違いの様な出会いと悲劇的な結末を描いています。 流石に舞台がパリ・コミューンなので美術や衣装に戦間期モダンな雰囲気はあえりませんが、 激しい市街戦を演出するモンタージュなどは1920年代のアヴァンギャルド映画らしいものでした。 当時のブルジョア退廃的な文化を象徴するものとして、オペレッタとカンカン (Cancan) が使われていたのが印象に残りました。 Дмитрий Шостакович [Dmitri Shostakovich] が付けた最初の映画のスコアでは、 Jacques Offenbach: Orpheus in the Underworld が引用されていたとのこと。 今回の生伴奏はそうではなかったので、元の Шостакович のスコアでの伴奏も聴いてみたいものです。
国立映画アーカイブ 展示室では企画展 『日本映画と音楽 1950年代から1960年代の作曲家たち』 (8/23まで)。 この時期の日本映画にもその映画音楽にも疎かったので、3人の会 (團 伊玖磨, 芥川 也寸志, 黛 敏郎) を軸とした展示に、 当時の映画音楽はクラシック音楽作曲家の大きな活躍の場だったことに気付かされました。 この頃の映画音楽は、19世紀におけるオペラ音楽のような位置にあった、ということなのかもしれません。