渋谷ユーロスペースで開催中の 『ジョージア映画祭2024』で、 『ギオルギ・シェンゲラヤ監督と「ピロスマニ」』と題されたプログラムの3作を観てきました。
გიორგი შენგელაია [Giorgi Shengelaia] 監督の劇映画第1作です。 都会に住む男が、旧弊な祭と聞くカヘティ [კახეთი / Kakheti] 地方のアラヴェルディ修道院 [ალავერდის მონასტერი / Alaverdi Monastery] の祭を訪れ、 祭に参加していた人の馬を拝借して野を駆け回ることで祭に一旦は騒動をもたらすが、 その後、修道院からのカヘティ平原の眺めを観て人々の営みに覚醒する、という物語です。 祭の場面は実際の祭の中で主人公の目付きの鋭い男が歩き回る形で撮影され、そこにナレーションが付けられます。 祭の中で感じる疎外感を説明的ではない詩的な映像で昇華させたような映画でした。
გიორგი შენგელაია [Giorgi Shengelaia] の兄 ელდარ შენგელაია [Eldar Shengelaia] による、 近年に亡くなった3人に捧げた1作20分程度の3作からなる短編集です。 タイトルの მრავალჟამიერ [Mravalzhamier] は長寿を讃える歌とのこと。 1作目『井戸』[ჭა / Cha] は映画監督 მიხეილ კობახიძე [Mikheil Kobakhidze] に捧げられ、 昔ながらの風情の街中で水の来ない井戸を掘る8時から進まない時間を描く不条理をユーモラスに描いています。 最後に井戸から水が湧く所で音楽に Johann Strauss II の “An der schönen blauen Donau” が使われます。 2作目『歌』[სიმღერა / Simghera] は ანსამბლი რუსთავი [Ensemble Rustavi] の ანზორ ერქომაიშვილი [Anzor Erkomaishvili] に捧げられたもので、 伝統的な地声合唱で歌を贈りに結婚式へ行ったら戦場になっていたが、その中で戦闘を止めるかのように歌うと話です。 映画中では結婚式のための新曲といった扱いでしたが、歌われるのは ხასანბეგურ [Khasanbegura] という伝統的な歌です。 3作目『小鳥』 [ჩიტები / Chetebi] は弟 გიორგი შენგელაია [Giorgi Shengelaia] に捧げたもので、 解き放った保護していた小鳥たちがアラヴェルディ修道院の周囲を飛び回ります。 いずれも不条理な現実と幻想が風刺の効いたユーモアと共に交錯する作風ですが、不条理なユーモアが効いた『井戸』が最も好みでした。
19世紀末から20世紀初頭にかけて活動したジョージアの画家 ニコ・ピロスマニ [Niko Pirosmani / ნიკო ფიროსმანი] の伝記映画です。 貧しい農家出身で正規の美術教育は受けず放浪しながら酒場などの看板絵などで収入を得ていたことで知られる、 同時代の Henri Rousseau などの並んで Примитивизм [Primitivism] や Naïve Art の文脈に置かれる作家です。 そんなピロスマニに関するエピソードを、アーティスト的な内面を掘り下げるのではなく、 正面性、対称性の強い様式的な画面作りと、断片的なエピソードを重ねていくような構成で、映画化しています。 様式的な画面作りに、 絵となった場面や描かれた経緯をエピソードの積み重ねが加わり、彼の物語を追うのではなく、画集を繰るようでした。