ドイツのグラフィックデザイナーJens MüllerとKatherina Sussekが蒐集した
A5 Sammlung Düsseldorfのコレクションに基づく展覧会です。
焦点が当てられているのは、第二次世界大戦後の西ドイツ、
継続性のある出版物などの中には1980年代のものがありましたが、
20世紀半ばのモダニズム色濃いデザイン (いわゆるミッドセンチュリー・モダン) から、
カウンターカルチャー, サイケデリックの影響が見え隠れする1970年代前半までのデザインの、
書籍、パンフレットなどの出版物とポスターをメインとしたグラフィックデザインです。
モダニズムならではの簡潔明瞭にしてスタイリッシュで見応えのあるデザインが楽しめました。
導入は、Hochschule für Gestaltung Ulm (ウルム造形大学) 設立者の1人のOtl Aicherによる
LufthansaやMünchen 1972 Olympiadeのグラフィックデザイン。
そして、その時代を感じさせるKiel WocheやDocumenta, Kasselといったイベントの一連のポスター。
その後、年代順ではなく、幾何学的抽象、タイポグラフィ、イラストレーション、写真というデザイン技法をテーマに展示が作られていました。
作家性が強く出るようなデザインではないため、特に、前半の幾何学的抽象、タイポグラフィの展示は少々掴みに欠けたでしょうか。
イラストレーション、写真の章は公共デザインよりも映画ポスターなどが多めという点でもキャッチーで、
そこでの作品を観てから前半を見直して、その抽象の中にあるレイアウトの個性が腑に落ちたところがありました。
そんなこともあって、作家として印象に残ったのは後半のイラストレーションや写真を大きく使ったデザイン。
Hans Hillmann や The Beatles: Yellow Submarine で知られる Heinz Edelmann による映画ポスター、
Celestino PiattiによるDeutscher Taschenbuch Verlag (dtv)のブックデザインなどでした。
このあたりのデザインとなると、モダニズムに収まりきらない、むしろ1970年代のカウンターカルチャー, サイケデリックのデザインとの連続性も感じられました。
少々意外だったのは、レコードジャケットのデザインが少なかったこと。
レコードジャケットのデザインがグラフィックデザインの中で重要な位置を占めるようになるのは
ロックやポップの分野でコンセプチャルなアルバムが制作されるようになる1960年代末以降、
つまりこの展覧会が焦点を当てている時代より後なのかもしれません。
そんなことにも気付かされた展覧会でした。
この展覧会は5月18日までですが、5月27日からはギンザ・グラフィック・ギャラリーで 『アイデンティティシステム 1945年以降 西ドイツのリブランディング』 というA5 Sammlung Düsseldorfのコレクションに基づく展覧会が始まります (7月5日まで)。 この展覧会とは違う観点からの展覧会のようですので、併せて観たいものです。