資生堂ギャラリーの新進アーティストを対象とした公募プログラム shiseido art egg の第18回第2期は、即興音楽や現代美術の文脈で活動する すずえり [suzueri] (鈴木 英倫子) の展覧会です。 名に覚えはあるのですが、意識して作品を観るのは初めてです。
1914年オーストリア・ウィーン生で、1930年にウィーンで女優デビュー、1938年にハリウッドデビューした映画女優として知られる、
また、無線通信で広く使われている周波数ホッピングスペクトラム拡散方式の元となる周波数ホッピングによる秘匿通信技術を
アヴァンギャルドの作曲家 George Antheil と共に発明した発明家としても知られる、
Hady Lamarr に着想した作品からなる展覧会です。
といっても、彼女に関してサーベイした資料を雑然と積み上げたような作品ではなく、
着想した造形作品を追う中に、彼女の一生の多面性や人生の困難が浮かび上って来るような作品でした。
作品としては、大きく分けて3つの作風からなり、 一つは、発明した秘匿通信技術の発想源となった自動ピアノに着想したトイピアノやアップライトピアノを改造した音が鳴る 「ピアノは魚雷にはのらない」 (2025) のような作品です。
もう一つは、発明家だった Hady Lamarr の秘匿通信技術を含む様々な発明を
3Dプリンタで造形して当時の資料や映像と組み合わせた作品
「暗号通信システムとコーラ・タブレット」 (2025) です。
三つ目は、Hady Lamarr に関係するインタビュー等の音源を電球の光にアナログ変調し
小型のソーラパネルに繋いだスピーカーで復調して聞かせる作品
「メルクリウス―ヘディ・ラマーの場合」 (2022-) です。
このインスタレーションが、視覚的にも美しく、ローファイな音の響きも良く、また、観客を能動的に動き回ることを促します。
この電球を使った作品が、自動ピアノに着想した作品や3Dプリンタの作品を繋ぎ合わせて、展覧会全体としてインスタレーションとしてのまとまりを作り出していました。
また、使われる音源の中で彼女の発明家だけではなくハリウッド女優としての面も取り上げることで、
彼女の生涯から当時の女性が取りうる選択の限界も見えるような、興味深いものとしていました。