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Review: 『リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s-1970s』 @ 国立新美術館 (建築展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2025/06/01
Living Modernity: Experiments in the Exceptional and Everyday 1920s-1970s
国立新美術館 企画展示室1E, 企画展示室2E
2025/03/19-2025/06/30 (火休;4/29,5/6開;5/7休), 10:00-18:00 (金土 -20:00)

戦間期からミッドセンチュリーにかけての20世紀の住宅に焦点を当てた建築展です。 この時期に建てられてた傑作と見做される作家性の高い14邸を、 モダンな住宅と特徴付ける7つの観点 (衛生, 素材, 窓, キッチン, 調度, メディア, ランドスケープ) から読み解く展覧会でした。 14邸が強く順序づけられることなく置かれ、その中で資料を観点と紐づけられた色分けで示す展示です。 年代順や7つの観点ごとのような手がかりの薄い展示構成にしばらく捉え所無さを感じたのですが、 住宅に限らず建築はある1つの観点のみの問題解決をしているわけではなく、 14邸を核に多面的な解決を示しているということが腑に落ちてからは、むしろ回遊性の高さを楽しみました。

取り上げている時代からして展示されていたのは戦間期及び戦後のモダニズム色濃い設計の住宅ですが、 入り口すぐに置かれた Le Corbusier: Villa «Le Lac» (1923) や、 Ludwig Mies van der Rohe: Tugendhat House (1930) のような モダニズム本流のマスターピース的な邸宅よりも、そこから少し外れた建築に興味を引かれました。

そういう点で最も興味深く観たのは戦前日本の2邸、 藤井 厚二『聴竹居』 (1928) と 土浦 亀城『土浦亀城邸』 (1935) でした。 特に、『聴竹居』は和洋折衷というものですが、単に様式的な混交というよりも、 衛生面などモダンな解決がされたものだという点にに気付かされたり。 もちろんそれだけでなく、戦前の松竹や東宝のモダニズム映画の舞台にありそう、というか、 戦前のモダンな生活を垣間見るような興味深さもありました。

ほぼ欧米もしくは日本の男性の建築家ばかりの中、非欧米日本でかつ女性の建築家で取り上げられていたのが、 イタリア出身でブラジル・サンパウロで活動した Lina Bo Bardi による Casa di Vidro (1951)。 7つの観点から読み解いており女性的とされるような面は特に強調されていませんでしたが、緑との一体感は欧米とはかなり異なるセンスに感じられました。 また、資料の中にサンパウロのSESC (Serviço Social do Comércio, 商業連盟社会サービス) 関連のものがあったことも印象に残りました。 SESCはブラジルで芸術・スポーツ・文化の分野での公共サービスを提供している組織で、 特にサンパウロのSESC (SESC SP) は音楽やコンテンポラリーダンスの活動が盛んで、 その活動を (特にCDやレコードという形で) 垣間見る機会がありましたが、 建築・デザイン関連の面を垣間見ることができました。

モダニズム色濃い邸宅が揃う中、出口近くに展示された Frank Gehry: Frank & Berta Gehry House (1978) は典型的なポストモダニズム建築でした。 Matei Călinescu: Five Faces of Modanity (1987) の言うように、ポストモダニズムもモダニティの5つの顔の一つ、ということでしょうか。