TFJ's Sidewalk Cafe > Dustbin Of History >
Review: Národní divadlo Brno / Činohra, Štěpán Pácl (režie), Karel Čapek (autor): Matka [Mother] 『母』 @ 新国立劇場 小劇場 (演劇)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2025/06/28
ブルノ国立劇場ドラマ・カンパニー, シュチェパーン・パーツル (演出), カレル・チャペック (作) 『母』
新国立劇場 小劇場
2025/05/31, 18:00-20:00.
Autor [Author]: Karel Čapek
Režie [Direction]: Štěpán Pácl
Obsazení: Tereza Groszmannová (Matka (Dolores)), Tomáš Šulaj (Otec (Richarde)), Roman Blumaier (Ondřej), Martin Veselý (Jiří), Vojtěch Blahuta (Kornel), Viktor Kuzník (Petr), Pavel Čeněk Vaculík (Toni).
Dramaturgie [Dramaturgy]: Milan Šotek; Scéna [Stage design]: Antonín Šilar; Kostýmy [Costume design]: Zuzana Formánková; Jazyková spolupráce [Language cooperation]: Eva Spoustová; Asistentka scénografie [Assistant of stage design]: Tereza Jančová; Asistent režie [Assistant of direction]: Vít Kořínek; Asistentka kostýmní výtvarnice [Assistant of costume design]: Julie Ema Růžičková; Hudba [Music]: Jakub Kudláč.
日本語字幕翻訳: 広田 敦郎.
Production: Národní divadlo Brno / Činohra
Premiéra: 8. dubna 2022 v divadle Reduta (Národní divadlo Brno)

チェコの演劇を観る機会は稀で、それに加え R.U.R. 『ロボット』 (1920) 等で知られる Karel Čapek (カレル・チャペック) の戯曲のオリジナルのチェコ語での上演を観られる、 という興味で、この新国立劇場・演劇部門の久々の海外招聘公演を観てきました。

上演された Matka 『母』は第二次大戦に向けての緊張が増す1938年に、それに先立つスペイン内戦 (1936-1939年) を受けて書き上げられた戯曲です。 オリジナルの時代設定は明示的ではないものの戯曲が書かれた戦間期と思われますが、それを現代に置き換えていました。 主人公は夫 Richarde をアフリカでの戦争で失った5人の子の母 Dolores です。 長男 Ondřej がアフリカへ医者として赴任して死亡した後から話が始まり、 続いて、パイロットの次男 Jiří が冒険飛行に失敗して死亡、 やがて、国内で発生した抗議運動がエスカレートして内戦状態になる中、 鎮圧する部隊にいた三男 Kornel、抗議運動へ加わった四男 Petr の双方とも死亡します。 内戦に乗じて外国の侵略が始まり、残された五男 Toni を失いたくない母は、防衛隊へ Toni を参加させまいとします。 しかし、やがて、子供達も侵略の犠牲になっていることを知り、母は Toni を防衛隊へ送り出します。

夫も4人の息子も、亡くなった後も亡霊となって登場するのですが、 亡霊であることを示すような演出は特に無く、まるで生前と同じよう。 亡父の書斎の中で繰り広げられるオーソドックスな密室劇の会話劇かのように演出されていました。 主人公 Dolores は老母として演じられることが多いそうですが、今回の演出では状況の中で葛藤する中年の女性として演じられていました。 現代の欧州の都市での暴動の映像やそれを伝えるニュース映像がTVに写し出される形で使われることで、 クリエーションを始めた時はロシアのウクライナ侵略以前で初演がその直後となったとのことですが、演じられている内容が現在の不安定化する国際情勢へ直結されたようなリアリティを感じるところもありました。 そして、比較的オーソドックスな演出が続いただけに、ラストの光の中へToniを送り出すような演出も印象的でした。

亡霊となった夫や息子たちを登場させる内容から幻想的な演出もあるかと期待したところもありましたし、 もう少し抽象的な演出の方が好みかなとは思いましたが、 時代を現代に置き換え映像なども使いつつ奇を衒い過ぎずに要を得た現代演出でした。