それぞれ作家/劇作家/詩人、作曲家、映画作家/舞台演出家/ビジュアルアーティストというリトアニアの3人による、 女性の低賃金労働の典型、スーパーのレジ打ちの女性たちの日常と憂鬱を題材としたオペラ、音楽劇、というか、インターディシプリナリな舞台作品です。
その演出もミニマルで、壁も剥き出しの店舗のようなホワイトボックスの空間を蛍光灯で照らし、 10の白い直方体の台の夫々上にパイプ椅子を並べています。 青みがかったスーパーマーケットの制服姿の10名の女性歌手が、バーコードリーダーとバーコードが印刷されたシートを手に椅子に座り、立ち上がることなく控えめに手振りを添えたり、足を組み替える程度の控えめな演技で、歌います。 蛍光灯の照明もフラット気味ですが、アリアを歌う際は歌手にスポットが当たるよう、他の蛍光灯が消灯します。
スーパーマケットの環境音も使われますし、フォーク的な節回しを感じる時もありましたが、反復を多用したポストミニマルな女声アンサンブルで、 伴奏はアップライトピアノ1台のみ、警備員姿の男性ピアニストが舞台上手で演奏します。 スーパーマーケットの日常を描くような内容はコーラスで、個々のエピソードはアリアで歌われました。
リトアニア語で歌われる歌詞の内容は、 スーパーマーケットでの通常の業務の描写、業務はもちろんプライベートも含めたレジ係の日常の出来事やそれに伴う細やかな喜びや憂鬱など、 スーパーマーケットのレジ係に取材したかのような断片的なエピソードが、 時に、シングルマザー、西ヨーロッパ (イギリス) への若者の出稼ぎといった問題にも触れつつも、ドラマチックな展開なしに淡々と歌われます。 どこまで取材に基づくものか創作なのは判断しかねる所はありますが、演出だけでなく、そんな歌詞の内容にもポスト・ドラマなドキュメンタリー演劇を思わせるものがありました。
終盤、大学で美術史の学位を取ったものの職が無くレジ係する転落への焦燥を歌うアリアから、それを慰撫するようなコーラスで終わる展開は、照明のフラッシュを使った演出もあって、意外にドラマチックなエンディングでした。 そんな高学歴ワーキングプアのエピソードも心を打つものがありましたが、 レジ係の女性たちの日常とその憂鬱を淡々と綴るミニマリスティックな演出の方が、むしろ、非正規の低賃金労働者における人間の尊厳を静かに浮かび上がらせるようにも感じました。
そんなテーマや演出を興味深く観たのも確かですが、 最近の Aki Kaurismäki の映画に出てきそういでたちの女性たち (Kuolleet lehdet [Fallen Leaves] (2023) の女性主人公 Ansa はまさにスーパーマーケット勤め) というビジュアルに、 Meredith Monk を思わせるポストミニマルな女声アンサンブルという音楽という点が、 琴線に触れたようにも思います。
ちなみに、この2013年初演の作品の後の2019年に、この作家3人は国際美術展 Biennale di Venezia (ヴェネチア・ビエンナーレ) のリトアニア代表として新作 Sun & Sea (Marina) を上演し、 最高位の Leone d’Oro (金獅子賞) を受賞しています。 動画 [YouTube] で断片を観ても見てもとても興味深い作品です。 その後の上演記録を見ると2023年には台北、2024年にはシンガポール、2025年にはソウルとアジアでも上演しているようですし、ぜひ日本でも上演して欲しいものです。