『AOBA+ART』は
2008年に横浜市が市内4箇所で展開している地元密着型のアートイベントの
『横浜アートサイト2008』の一つだ。
『横浜アートサイト2008』は
『横浜トリエンナーレ2008』応援企画
でもあり、その off/fringe 的な位置付けのイベントとも言えるだろう。
アートフォーラムあざみ野に設置された1点を除き、
美しが丘三丁目の住宅街内に作品が設置されている。
さらに、たまプラーザ駅商店街と青葉台商店街のいくつかの飲食店が
『AOBA+ART+EAT』という連動企画に参加している。
サイトスペシフィックな街中アートイベントというと、 1990年代後半に頻繁に開催された 『Ripple Across The Water』 (青山界隈, 1995)、 『Morphe』 (表参道界隈, 1996-2000) や、 『秋葉原TV』 (秋葉原電気街, 1999) のように、 都心を商業地域を核とした街中で開催されるものが多い。 その一方で、『越後妻有トリエンナーレ』 (2000-) のように、 それとは対称的な里山エリアで展開するものがある。 『AOBA+ART』というのは、そのどちらでもない。 東京郊外という点では、 『取手アートプロジェクト』 (取手市, 1999-) に近い。しかし、こちらは、美しが丘住宅街という郊外では比較的高級な閑静な住宅街。 このような場所選びに妙のあるイベントだ。
全体の印象としては、街に対してとても調和的なイベントだった。 街並みを異化するような強烈な存在感の造形物を設置する作品はほとんど無く、 むしろ、作品設置による視線誘導で日常化してしまった街の景観を再発見させるような、 ささやかな作品からなる展覧会だった。 作品のささやかさもあるのかもしれないが、コミュニケーションを扱う作品も、 議論を醸すような問題に触れるというより、 住民の日常的なコミュニケーションを促すような方向性を強く感じた。
そんなことを思ったのは、たまプラーザ駅から美しが丘三丁目の住宅街に向かう途中、 美しが丘一丁目のたまプラーザ団地が目に入ったから。 そして、このイベントではこの団地の存在が無視されていることが気になった。 高級住宅街と団地という隣接する異質な街を対比しつつ連携させることができれば、 社会階層や都市計画、景観のありかたに対するより批判的な視点の発見や、 より困難な住民コミュニケーションの問題への取組など、 挑戦的なテーマを持った作品制作に繋がったのではないか、とも思ってしまった。
そういう点を少々物足りなく感じたのは確かだ。 しかし、イベント慣れしている商業地でも難しいだろうに、 住宅地で地元との信頼関係を築くことなく、 いきなり景観を大きく変える作品を設置したり 困難な問題を扱ったりすることは現実的では無い。 準備期間も限られた中、アートイベントを開催するのも初めての場所、 まずはこういう場所に足掛かりを作った、というだけでも、良いとは思う。 そして、今後、挑戦的な作品に取り組める程に アートイベントを根付かせることができたら面白いだろうと思う。
ちなみに、サイトスペシフィックに制作された作品を主に展示するアートイベントの場合、 制作時やワークショップでのエピソードを聞きながら観た方が楽しめることが多い。 事前にウェブサイトを見ていてそのような印象を受けたので、 10月11日に開催された参加作家が案内するお散歩ツアーに参加した。 そうしたのは正解だったと思う。 この日のツアー参加者は40名程度。前週の参加者は100名近かったとのこと。 意外と盛況のアートイベントになったようだ。
以下、写真と共に個別の作品についてコメント。
谷山 恭子 の作品。
少々気付きづらいオブジェを
メッセージ (写真の場合「何羽いるでしょう」) と共に設置。
このさりげなさとメッセージの優しい茶目っ気が、
このアートイベントの雰囲気をよく現していたようにも感じた。
池田 光宏 (左) と 原 高史 (右) の作品。
池田は夕食の献立をレストランのチョークボード風に書くプロジェクト。
原は一言あいさつのようなメッセージボードを掲げるプロジェクト。
ご近所のづきあいを促すかのような作品。
今まで見た原の作品はもう少し社会的歴史的文脈を広くとった話を
扱っていたように思うので、このこぢんまり感は意外。
しかし、これも住宅街ならではなのかもしれない。
spoken words project (飛田 正浩) による作品。
住宅地内のあちこちの住宅の窓や壁などにカーテンを設置。
色は赤〜ピンク〜白で目が小さな目が書かれていたりもする。
中津川 浩章 による作品。
ブルーバイオレット単色の絵をワークショップで描かせた白いキューブを
住宅地内のあちこちにあるロータリーや小さな緑地に設置。
spoken words project の作品にしてもそうなのだが、
あちこちに散在させて動線と視線を誘導するような作品の場合、
ミニマルな形状、色、パターンのオブジェを設置した方が
スマートのようにも思ってしまう。
栗林 隆 の作品。といっても、ぱっと見は、廃屋の廃ガレージ。
しかし、右手置くの流しの上のミラーボックスの開けて中を覗くと、
ガレージ裏の細長い空間に羊歯の葉を使ったインスタレーション。
お散歩ツアーでなければ、見落としていたかもしれない。
ima による案内標識を模した作品の向こうに見える
渡辺 五大 による カバ の遊具をアルミ箔で銀色にした作品。
造形そのものというより、
この作品を制作をする際に一緒に公園の草刈りをしたこと、
周囲の住民のカバ遊具の再発見など、
住民の巻き込みに関するエピソードの方が面白かった。
そういうエピソードを込みに楽しむ作品かもしれない。
本間 純 の作品。
江戸時代の古地図から調べた美しが丘のあった村の戸数から、
そのイメージを再構成したような作品。
歴史を感じさせない郊外の住宅地に、
失われた歴史を思い出させるきっかけを作ろうというのは判る。
しかし、作家の説明なしに、この造形のみをきっかけとするのは、厳しいかもしれない。
美しが丘第四公園に設置された 安部 有 の作品。
住宅街中設置作品の中では最大の造形物。
隔離された場所に設置されてしまったせいか、
特設された小規模アドベンチャーコース、のよう。
実際に登って歩くのはそれなりに楽しいけれども、
登れなくて良いからこの規模で道や公園を横切るような造形物を設置できれば、
とも思った。
美しが丘の住宅街から離れて、
アートフォーラムあざみ野の吹抜けに展示された、巨大なバルーン。
祐成 政徳 の作品。
おまけ。『AOBA+ART+EAT』に参加していた
たまプラーザ商店街のカフェ ボンネット の『AOBA+ART』特別デザート。
キリンをイメージしているとか。