ハルキワールド


(NSカード情報誌特集『ハルキワールド』より)




好きか嫌いか?

ハルキワールドの特徴は、読者の感想が〈好き〉か〈嫌い〉にハッキリと別れることです。

この場合、重要なのは〈嫌い〉の方。

好きという感情は人それぞれであり、問題はありません。神様が好きだったり、チョコレートが好きだったり、ネコが好きだったり、働くことが好きだったり、ナマケものだったり・・・・・・。
好きという気持ちがあってこそ、それぞれのいろいろなモノゴトが肯定され、積極的にそのモノゴトが押し進められたりするから、バラエティに富んだ世の中ができるのです。世界の基本は〈好き〉というところにあります。だから、これは、問題なし。



問題は〈嫌い〉ということ

嫌いは嫌いでしょうがない、ようだけど。でもホントは、ちょっと考えてみる必要がありますよね。
どうして、嫌いなのか、というカンタンな問題です。


嫌いな理由がハッキリと自分自身にわかると、もう、それだけで、その人は成長することができるんです。これは心理学の基本でもあるし、いわゆる“悟り”というのも似たようなもの。キリストだって、仏教だって、そう。“汝、自身を知れ”とか“自業自得”とか・・・・・・。

要は、自分を知ることなんです。



どうして、〈嫌い〉なのか

ハルキワールドと関係が深いのが、いわゆる“純愛ブーム”でした。
マンガ家柴門ふみ原作でトレンディドラマのジャンルを確立し、話題になったTVドラマ『東京ラブストーリー』もそのひとつ。

このドラマに関する調査で、男女共に50%以上が〈好き〉と答えているのが、鈴木保奈美が演じる「赤名リカ」。そして、注目したいのは、おとなしくてはっきりしない「カンチ」と「さとみ」の嫌われぶりです。「さとみ」は女性の50%以上、男性の20%以上に嫌われ、また、「カンチ」は女性の20%以上、男性の40%近くに嫌われています。男女とも同性に対してはシビアな姿勢で判断しているよう。

ところが、自分と似ているのは? という質問では男性の40%以上が「カンチ」をあげています。そして、女性では「リカ」と答えたのが50%。
つまり、男性は“嫌いなカンチ”が自分に似ていることを直視している可能性が高いということ。反対に女性は“好きなリカ”が自分に似ている、と思い込みたがっている、と判断することができます。

また、結婚するならどのタイプを選ぶか? という質問では男性の40%以上が(女性に嫌われている)「さとみ」を、約20%が「リカ」を選んでいます。ここでも女性は40%弱が「リカ」を選び、あくまで好きで理想に近いタイプにこだわっているようです。

しかし、理想と現実をちゃんと区別しなければいけません。子供じゃ、ないんですから。その点、はっきりしない優柔不断な「カンチ」と自分をオーバーラップさせている男性は、自分のマイナス面がわかっているだけ成長が期待できます。自分の現実を見ずに「リカ」と自分を同一視する傾向が強い女性は、大きく反省しなければいけませんね。

単に〈好きか嫌いか〉といった気持ちや感情のようですが、実をいうと深くて大きな問題がそこにはあります。でも、どう判断するかは、実際に本を読む人の問題。

あとは、自分で考えてみてください。



10年の間、さまざまな展開を見せたハルキワールド。
代表作を中心にカンタンにガイドしてみましょう。



登場する人、登場するモノゴト

ハルキワールドの登場人物は大きく分けて3種類の人間がいます。主人公の“僕”、友だちの“鼠”、女の子の“直子”と“緑”。もちろん他に何人も登場しますが、代表すれば、“僕”以外は、友だちと女の子というシンプルでしかも必要な存在が揃っているわけです。
そして、次第に現れてる重要テーマとして“高度資本主義社会”があります。


自分のこと、友だちのこと

『風の歌を聴け』では友だちである“鼠”との出会いや、小さい頃しゃべることができなかった“僕”自身のことが描かれました。これは、自分を見つめ、友だちと出会っていく始まりの小説といえるでしょう。

・・・・文明とは伝達である、と彼は言った。もし何かを表現できないなら、それは存在しないのも同じだ。いいかい、ゼロだ。


女の子のこと、スタンスについて

『1973年のピンボール』では、“僕”と、それを取りまく他人や社会との関係が描かれています。“双子”も女の子の象徴として登場します。 ここでの特徴は何といっても“僕”の周囲に対するスタンス。一見クールな態度の内面が明らかになってきます。

・・・・「遠くから見れば、」・・・・「大抵のものは綺麗に見える。」

・・・・「私には何もないわ」
・・・・「失くさずにすむ」



友だちのこと、スタンスについて

『羊をめぐる冒険』では、友だちの“鼠”のために、“僕”が一歩を踏み出します。彼はいままでのクールな姿勢、周囲へのスタンスを変えたのです。少なくとも、友だちである“鼠”のためにホットに動いたのは確かです。

・・・・「でも暇つぶしの友だちが本当の友だちだって誰かが言ってたな」と鼠は言った。・・・・「君が言ったんだろう?」


直子のこと、緑のこと

『ノルウェイの森』では、直子との決して救済できない恋、つめられない関係を描きました。一方、緑との恋愛関係では“僕”のスタンスが問題としてクローズアップされ、エンディングとなります。

・・・・「世界中に君以外に求めるものは何もない」
・・・・「あなた、今どこにいるの?」


現実の問題、解決方法

『ダンス・ダンス・ダンス』では、“僕”は「高度資本主義社会」に「ユミヨシさん」とともにとどまるべき現実を発見しました。つまり、現実をそのまま受け入れることですべては解決したのです。そして、それは、新たなスタートなのでしょう。

10年間にわたるハルキワールドは、長編作品としてはここで終わります。

・・・・「心配することはないよ。」・・・・「みんな繋がっているんだ。」




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