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    波照間島あれこれ

    波照間を知る本
    このページでは波照間に関する本で近年刊行され、読みやすく、入手しやすいものをいくつか紹介します。観光ガイドブックではわからない島の空気が伝わるかと思います。戦争マラリアに関する書物については別項を参照してください。また、専門書に関しては別途紹介します。

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    べスマ!
    「ベスマ! まりこ先生とゆりちゃんの波照間島日記」

    二宮真理子、新本百合子 著
     ボーダーインク社(沖縄) 1999年12月刊
    ISBN4-938923-84-X C0095 1600円

    「ベスマ」は波照間の言葉で「私たちの島」という意味だ。筆者は横浜出身、沖縄県で教員となり、波照間中学校に99年3月までの2年間勤務し、音楽と美術を教えた。共著者は生徒の一人で、イラストや授業のルポ(感想文)などを載せている。

    本文は「島と出会う」「人と出会う」「自分になる」の3章となっている。

    「島と出会う」の章では、アダン葉ぞうりや横笛作り、藍染めといった島の伝統的な工芸を生徒達と共に島の人たちから学んでいく姿や、ムシャーマへの参加などが描かれている。共著の生徒によるイラストを交えた体験ルポも新鮮で楽しい。

    「人と出会う」の章では島に惹かれて移住した「モンパの木」夫妻、「パナヌファ」主人、童話・絵本作家の本明紅さんが紹介され、それぞれの島に移住するまでの経緯や島への想い、現在の暮らしなどが聞き書きされている。島と自分とのかかわり方が三者三様で、いずれも興味深い。

    「自分になる」の章で、筆者は島の古老達たちからもの作りを学んだり、同じように島に惹かれ移住してきた人たちの生き方に学んだりするうちに「日常生活の中でものを作る心豊かな生活」に自らの道を見出し、陶芸家になることを決心して教員生活に終止符を打つ。

    筆者の眼差しは時には先輩の移住者の眼差しに重なり、時には生徒の眼差しにも寄り添って自然体で島の生活に入り込んでいく。いろいろなことを体で学んでいき、そこから自分を考えていくという姿勢には共感が持てる。

    また、これからの島を支えていく子供たちの島への眼差しが筆者を通して、また共著の生徒自身を通して伝わってくるのもよい。共著者は「「いい島、いい所」だけではどうにもならないこともある」という率直な意見を述べつつ、「波照間活性化計画」を提案してみせる。
    筆者のさりげない文章からですら、島の姿が変わりつつあり、伝統や自然が失われていく様子が垣間見られるが、そのような中で新しい世代がどうすれば島のよい面を受け継いでいけるのか、この本の主題はそこにあるわけではないのだが、いろいろと示唆する部分は少なくないように思えた。

    青い服を着た魚「青い服を着た魚」

    本明紅 作・画
    新風舎 1996年12月刊
    ISBN4-7974-0023-4 C0093 1200円

    「ベスマ!」でも紹介されている、波照間在住の絵本作家本明紅(ほんみょう こう)さんの作品。「青い服を着た魚」「海の卵」の2編を収録。

    「青い服を着た魚」
    どす黒く濁った大きな港のそばでうまれた魚「テダ」は見たことの無い青い海に憧れていた。ある日流れ着いた麦わら帽子から遠い南の島の歌を聞かされたテダはふるさとを後に青い海を目指して旅に出る。苦難の末にたどり着いた南の海。しかし「テダ」の体はその海には似つかわしくない色をしていた・・・

    作者は本作品が出版された96年夏に、長年憧れて通い続けた波照間に移住したという。テダはそんな作者自らの姿が投影されているのだろう。テダが島で出会った藍染め職人の女性は、「モンパの木」の奥さんの姿を思い起こさせる。そして作者の描く七色の海は、波照間の海を思い浮かべずにはいられない。

    「海の卵」
    大金持ちの男が水族館で1匹の美しい魚に一目惚れし、自宅に水槽を作って魚と暮し始める。水族館で生まれ育った魚はある日テレビで初めて海を見、男に頼んで海に連れていってもらう。それ以来魚は元気をなくし、日に日に痩せこけていく・・・

    こちらの作品も切ない。おそらく「青い服を着た魚」以前、島に移住する前に書かれたのではないだろうか。主人公と魚の関係は、沖縄の自然に対する作者の繊細な想いをうかがわせる。

    いずれの作品も、沖縄・八重山の海に惚れ込んだり、移住に憧れている人には特に、作者の繊細な想いが伝わってくるだろう。夕暮れのニシハマで読みたい作品。

    なお、作者は「太良の海の青い風」という作品で、98年の第2回海洋文学大賞童話部門の大賞を受賞している。この作品は市販されていないが読んでみたいものだ。

    (関連HP:琉球新報98年6月23日記事)

    日本列島を往く「日本列島を往く(1)国境の島々」

    鎌田慧著
    岩波書店(岩波現代文庫) 2000年1月刊
    ISBN4-00-603001-0 C0136 900円

    ルポライターとして著名な鎌田慧氏によるルポ。初出は97年。他に根室、北方4島、小笠原、対馬、与那国と日本の「辺境」の島々が取り上げられている。波照間の項には56ページが割かれている。紀行文に近い形態で島の各所をまんべんなく紹介しつつ島の過去、現在、将来についてがバランスよくまとめられている。

    本文は「パイパティローマ」「マラリア地獄」「忘勿石」「共生の思想」の4章で構成されている。「パイパティローマ」の章では伝説の背景を資料などで追いつつ、島の古代史や地理を俯瞰していく。「マラリア地獄」「忘勿石」の章では島を知る上で避けて通れない悲劇を、生存者の証言を中心にしてとりあげ、現代へとつなげていく。「共生の思想」の章では、製糖業、ユイ組織、泡波、農業、星空観測タワーなどがとりあげられ、現在島で中心になっている世代の人々に話を聞きつつ、島の現状と将来像を描いている。

    ここ数年、波照間は何度もテレビ番組で取り上げられ、観光ガイドなどでも紹介ページ数が増えているが、なかなか深い部分まで掘り下げたり、全体像を浮かび上がらせたりしているものはない。学術書や調査報告はもともと多いが、70年代までのものが多く、また一般の目に触れることは少ない。それだけに、近年の島の状況を丁寧に取材しまとまった形でルポしたこの本は貴重だ。波照間をとりあげた書籍で現時点で簡単に手に入るものとしては最もよくまとめられた本ではないだろうか。
    (新川明氏による名著「新南島風土記」(1978)で同様の題材を切り口に波照間がとりあげられており朝日文庫にも収録されていたが、30年近く前の状況を記したもので現状とは隔たりがあり、また現在絶版である。)

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    以上3冊の本を紹介しました。興味をもたれた方はISBNコードをメモして、ぜひ本屋さんで発注してみて下さい。「ベスマ!」は「地方小出版扱い」となります。いずれの本も紀伊国屋書店BOOKWEBなどオンライン書店でも発注できます。なお、「ベスマ!」「青い服を着た魚」は波照間港ターミナルの売店でも買うことができますので、島で買って読むのもよいかもしれません。

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    HONDA,So 1998-2000 御感想はこちらへ