棒術/95/08/10


波照間島滞在記8/10pt.5

8/10晴れ
その5

我々を加えた訪問組は、一挙に10人以上に膨れあがった。
月夜の道を騒ぎながら歩く。街灯は全然ないが、月がとても明るく、全てがくっきりと 見渡せる。しかし、まさかこんなことになるとは夢にも思わなかった。我々のような他 所者がこんな重要な行事に、しかも成り行きで参加出来るとは。

次に訪れたのは島唯一の土産物小屋『モンパの木』。ここの夫婦は二人とも内地出身で この島に住み着いた人だ。いかにもヒッピー風の人だがこんな家にも訪問団は訪れる。 『たましろ』でやったのと同じことが繰り返される。いままで沢山の家で酒を振る舞わ れて来たので皆かなり酔っていてその分我々新参組に酒が回される。
ここでのカチャーシーは皆で一緒に庭で踊った。ボンゴやマラカスがもちだされ、モン パのおやじのエレキギターが加わる。月明りの下で繰広げられる、不思議な光景。
ここを出るときにはモンパ夫婦とモンパの居候の女性達も訪問団に加わり大所帯になっ た。こうして数軒をまわる。仕切役のおっさんに、この家は建て替えたばかりだとか、 この家の長男が自分は嫌いなのだが今日は特別なのでちゃんと祈るのだとか、酔った勢 いで聞かされる。
最後はこの団体の最年長のおじさんの家を訪れる。時刻は12時をまわっている。この おじさんがこの盆の行事全体の指導役を勤めてきて、今年を最後に、来年からは相談役 にまわるという。仕切役のおっさんからねぎらいの言葉。お経の後、最後だということ で、おじさんが数曲島唄を唄う。そして、来年から指導役になるのがなんと『たまし ろ』の主人。彼がおじさんの唄にあわせて踊り出す。なんか女形のような仕草を見せて 異様におかしく、大受けする。そのうち、うたえ、とのリクエストがでる。たましろの主人は昔、 声楽を本格的に習っていたらしいのだ。
本人は照れていたが、モンパのおやじがギター で『雪の降る街を』のコードを弾きだすと遂に歌い始めた。その第一声が響くと同時に 私はふきだしてしまった。あまりにおかしいのだ。氏の歌声はオペラ風のもので歌自体 だけを聞けば実にうまい。しかし、その歌い方が問題なのだ。遥か遠くを見つめるまな ざしで、胸に手を当て、切々と大真面目に歌い上げるその姿ははたから見れば完全にギ ャグだった。そして島の人達はそれを知っていてわざとリクエストしたのだった。「 よ、アダモたましろっ」と掛け声が飛ぶ。なんとか笑いをこらえたが、次の『ペチカ』 ではもう駄目だった。だいたいこの南の島で何で雪の歌ばっかりなんだろう。歌う前に ズボンをずり上げるのがまたおかしい。すかさず、島のひとから、『笑った奴、今日の 宿代きっと10倍だぞ』とつっこみが入る。

大笑いした後は最後のカチャーシー。仕切役のおっさんのはからいで、我々他所者組は 踊りながら自然に玄関から順々に出ていくようにしてくれた。皆が出るとおっさんが宿 の近くまで送っていってくれた。お礼をいって別れる。充実した一日だった。


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